インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

孔雀

  長らく映画の撮影に携わってきた顧長衛が初めて監督した作品。文革が終わったばかりの中国。地方都市に暮らす五人家族の、何となくぎこちない日常を綴る。
http://www.eiga.com/official/kujaku/
【ネタバレがあります】

  軽い知的障害のある兄、少々身勝手な姉、家族のしがらみから抜け出したい弟。そして寡黙な父親に気丈な母親。文革が終了してぽーんと新しい世界に放り出されたような家族は、毎日の生活に精一杯ながらもどこか向かうべき目標を探しあぐねているようにも見える。
  三人のきょうだいを一人ずつ中心に据えて、それぞれの日常が紡がれていく。姉のパートが終わると、兄のパート、その後弟のパートと、時間を前後しながら繰り返され、色々なエピソード、しかも突飛なエピソードばかりが重なるので、ちょいと混乱する。
  が、もとよりこの映画はストーリーを順番に追うようには作られていない。顧長衛監督の狙いは、日常に起こる様々な「小事件」をスケッチ風に積み重ねて、あの当時に中国の市井の人々が共有していた希望と不安が入り交じった気持ちを再現することにあるのだろう。
  河南省あたりの地方都市、その街の雰囲気や人々のたたずまいはリアリティ抜群。観光都市ではない中国の地方都市に行ったことがある人なら、「ああ、あの雰囲気!」とすぐに了解できるはず。俳優の演技のうまさは言わずもがな。本能的にコネに頼る行動原理や、ちょっとした言葉の端に見え隠れする中国人的な廉恥の感覚など、ごくごく微妙なニュアンスまで表現されている。★★★☆☆。