インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

不完全燃焼

  急ぎの翻訳仕事、PDFファイルで原稿がどどっと送られてきたのだが、文字がつぶれていてよく読めない。エージェントもこれではあまりにもあまりだと思ったのか、原稿をバイク便で送ってくれたのだが、やはりよく読めない。
  よくよく見ると、中国大陸からファクスされてきた原稿をさらにファクスで転送し、それをもう一度コピーしたというしろもの。多くの漢字が完全に黒くつぶれている。
  それでも一応目を細めてみたり、文章の前後で判断してみたりするのだが、とにかく判別できないものはできない。大きな活字はまだしも、辞書のように小さな活字や、「達筆にもほどがある」と机をひっくり返したくなるような肉筆(これまたえらく小さい文字)をいったいどうしろと? せめて原本であれば筆順を推理したりすることも可能だが、何度もコピーを重ねた単なる墨一色では物理的に不可能だ。
  時々こういう原稿で翻訳を頼まれる。エージェントは「漢字が判別できるところだけでも」と言うが、漢字が判別できても、文章にならない部分はたくさんあるのだ。日本語と中国語ではシンタックスも違うのだから。
  それでもなぜか「翻訳者に渡せば何とか判別してくれるだろう」とお考えになるお客様が多い。それはお考え違いです、お客様。
  そもそもの話、文字の判別は翻訳者の仕事ではないと思うのだが。まあ、そうむげに断ることもできないので、今日も目を細めつつムリヤリ判読し、それでも判読できなかった部分が混ざった不本意な原稿のまま納品する。エージェントも「それでいいですよ」と言うのだが、あまりいい気持ちはしない。