インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

明日へのチケット

  エルマンノ・オルミアッバス・キアロスタミケン・ローチという三人の監督が参加したオムニバス映画。けれど単なるオムニバスではなくて、オーストリアのインスブルックからイタリアのローマへ向かう国際列車を舞台に、三つの物語が緩やかにつながる構成になっている。
http://www.cqn.co.jp/ticket/
【ネタバレがあります】

  イタリアとイギリスの合作映画というだけで「絶対見に行く!」と決めた私は両国の映画の大ファンだ。だから多分に贔屓目で見ているとは思うけれど、期待にたがわぬ素晴らしい作品。
  有名無名の俳優たちのしっかりとした演技もさることながら、『世界の車窓から』のテーマ音楽が聞こえてきそうな列車内の様子がとてもいい。国際列車を舞台にしていながら、車窓の美しい風景はほとんど出てこず、ひたすら車内の人間関係を描き続ける。これもまたいい。
  この映画で描かれているのは、異なる背景を持つ人々がどう相手を理解するかということだ。ドイツ語を話すオーストリアの軍人、イタリア語を話す老教授や車掌、英語を話すイギリスのサッカーファン、言葉に不自由するアルバニアからの難民一家。多民族が乗り合わせる国際列車のなかで、ぎこちないながらも意思の疎通をしていくその「もどかしさかげん」が誤解を生み、共感をも生む。
  言語を素材に、こうした物語を作れるというのがまず、ヨーロッパならではだなあと思う。日本語字幕ではこの辺りの味わいがなかなか表現されないので、この映画は字幕を追いながらもぜひ言葉の違いに耳を澄ませたい。
  また、同じ言語を話す者同士にも、相手を理解することの難しさが潜む。傲慢な振る舞いの将軍未亡人と、その手助けをする青年。この未亡人と携帯電話や指定席を巡って口論になる乗客たち。言葉の五割は“fuckin’”で占められるほど「がさつ」なサッカーファン三人組。私など、電車やバスで騒がれるのが何より嫌いな人間だから、「ええい、いいからお前らみんな黙って座れ」とこぶしを握りしめる。
  それでもそこまで舌戦を繰り広げた者同士が互いを許し合い、うってかわった優しさを見せる場面もきちんと盛り込まれている。あきらめた恋あり、うんざりする日常あり、金銭的な不安あり。登場人物それぞれの人生に明確な幸不幸は示されないのだが、どこかこう、明日への希望を感じさせる、人生を肯定するスタンスがいい。何ともしみじみと味わい深い映画。★★★★★。