インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

寓話

  とある国のプロスポーツチームが来日するというので、日本側がインビテーション(招聘状)を発行した。ところがその国の日本大使館で選手たちに対するビザの発給が拒否されてしまったという。理由は、インビテーションに記された選手の出生年が、その選手のパスポートと異なっていたからだ。パスポートにはなぜか数歳若い出生年が記されていたらしい。

  パスポートの出生年がインビテーションと異なっていた……ったって、日本側も前回来日時にそのチーム全員からパスポートコピーの提供を受け、それをもとにインビテーションを作成したのだ。間違っているはずはない。そこで調査してみると、おおむね次のようなことが分かった。
  一人の人間が二つ以上のパスポートを持つことがある。ビジネスや旅行で海外へ渡航する際に持つ一般旅券の他に、公務や外交で渡航する際には公務旅券や外交旅券といったパスポートがあるのだ。日本にだってある。その国ではスポーツ選手が公務員という位置づけになっている場合も多く、選手が公務旅券を持っていることがあり得るのだ。
  しかし、いくら二種類あったって、同じ人間だもの、同じ生年月日だろう……と思うのは、素人である私の浅はかさ。かの国ではなんでもありなのだ。しかもその理由がすごい。
  「ユースの試合に出場させるため」
  なるほど。競技によっては二十一歳以下とか十九歳以下とか、選手の年齢を限定した選手権の形態がある。そうした国際試合に、制限年齢は過ぎているけれど、実力があるので何とか出場させたい。じゃあもうひとつパスポートを発行して、出生年をいじっちゃえ。
  パスポートを発行する主体は誰か、パスポートとはそもそもどういう性格を持つ書類か……すごすぎる。世界はまだまだ広いのだ。