インタプリタかなくぎ流

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打ちのめされるようなすごい本

打ちのめされるようなすごい本
  米原万里氏の全書評集。前半は亡くなる直前まで連載されていた『週刊文春』の「私の読書日記」、後半は様々な媒体に発表された、長短・硬軟とりまぜた書評や文庫本の解説などが収められている。

  米原氏の博覧強記と旺盛な批評精神、それにユーモアあふれる文体を支えていたのは、こうした膨大な読書量だったのだなとあらためて感じ入る。ご本人によると、老眼や体力の衰えを感じる歳になっても、忙しい仕事のかたわら平均して一日七冊を読破していたらしい。一日七冊!
  有名な持論「いい通訳の条件は、その国の小説を自在に読めること、そして自国の小説もちゃんと読めること」にも、あらためて嘆息することしきり。私など、中国語の小説はいまだに靄がかかった状態で、とても胸を張ってクッキリハッキリした風景だとは言えないもの。
  一カ所だけ、米原氏がタバコに寛容な立場をとり、社会に広がる禁煙運動に留保をつけている文章があって、おやと思う。公害や人権などの運動に関わり、人間の権利が抑圧されていることについて高い意識をもっている人が、喫煙の害(特に受動喫煙)については驚くほど無頓着という例を今までたくさん見てきたが、米原氏もそうだったのかなと少々複雑な気持ちに*1。もちろんそれは、大量殺戮とそれに伴う兵器開発を繰り返す加害国での激烈な禁煙運動、ないしは昨今の病的なまでの健康志向といったアイロニーを含みつつの発言ではあるのだけれど。

*1:タバコは昔から吸われているのに、肺癌が急増したのはごく最近、という疑問は傾聴に値するが。