インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ゲド戦記

  ファンタジー小説ってふだんはあまり読まない*1のだけれど、この作品は例外。岩波書店刊の全巻を持ってる。しかも、スタジオジブリが世に送り出してきた作品群の原点とも言える物語なので、期待して映画館に出かけた。
http://www.ghibli.jp/ged/
【ネタバレがあります】

  ううむ、これは『ゲド戦記』なのだろうか。
  脚本はもう少し作りようがあったのではないか。演出の企みすら感じられない薄っぺらなストーリーが、さらにぶつぶつ切れるものだから物語に全く引き込まれない。アレンの父親殺し(?)に絡む「影」との葛藤も、非常に中途半端で何が言いたいのかよく分からない。そもそもこの映画、ハイタカ(ゲド)自身の影がえらく薄い。原作のほんの一部を借りてきただけということもあるし、やはり「ゲド戦記」などと銘打つべきではなかった*2
  次に絵。これまでの宮崎駿監督作品とは違うのだから絵も雰囲気が変わって全くかまわないと思うが、変わった部分はおおむね「ヘタ」になった。特に悪役・クモの「変身」後。これほど荒さの目立つ造形はジブリにしては珍しいのではないだろうか。アレンのこわばった顔にも違和感が残った。もっともこれは「これまでとは違うものを!」という試みととれなくもないが。
  一方で変わっていない部分はまんま、これまでのジブリ作品の焼き直しだ。テルーにしてもウサギにしても、「もののけ姫」のサンや「風の谷のナウシカ」のクロトワがダブって見える。「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」でもおなじみの「ドロドロしたもの」も登場するが、いまさら感は否めない。スタジオジブリの原点となる作品だから、これまでの集大成をということなのだろうか。ホートタウンの街並みや、海と空の表現など美しい背景はさすがと思わせる一方で、テナーの家の凡庸さやクモの城の極端なまでの地味さかげんは、あれは何なのだろう。
  ほかにも声優(特にテルー)が稚拙だとか、二人組のおばさんのやりとりがあざとくて怒りすら感じたとか、いろいろ感想はあるのだが、あまり酷評ばかりするのも気が引けるのでこれくらいで。★☆☆☆☆。

*1:川原泉の『バビロンまで何マイル?』で、主人公の月森仁希がこんなことを七五調にまとめている。「エルフドラゴンユニコーン/いきなり出てくる水晶宮/呪文がどっさり黒い森/魔法使いに竜使い/闇の貴公子騎士戦士……あの手の話はどーもピンとこないな」。私も(^^;)。

*2:監督の宮崎吾郎氏が原作者のル=グヴィン氏に会ったときのエピソードが[http://www.ghibli.jp/ged_02/20director/000854.html:title=『監督日誌』で紹介されている]。ル=グヴィン氏は映画を見終わったあとに“It is not my book. It is your film. It is a good film.”と言ったそうだ。英語の語感はよくわからないが、このシンプルな感想はどうなんだろう、かなり怒っているんじゃないのか。