インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

わたしを離さないで

わたしを離さないで
  カズオ・イシグロ氏の最新作。大好きな『日の名残り』と同じ一人称のスタイルながら、これはまたえらく趣きの異なる小説。一体この人の引き出しはいくつあるのだろう。
【ややネタバレになるような記述があります】

  とにかく作品全体が大きな謎解きのような構成になっているので、ネタバレは一切慎みたい。読み進んでいると、謎を解き明かす鍵が時折何の前触れもなく、しかもさらっとさりげなく現れる。一瞬扉が開いて、深い深い奥底がかいま見えたような感じ。ああもう、これ以上は書くのをやめよう。
  カズオ・イシグロは日本人の両親のもとに生まれたが、幼い時に英国へ移住して英語ネイティブになった。先日読んだ斎籐兆史氏の『日本人に一番合った英語学習法―明治の人は、なぜあれほどできたのか』では「日本語がまったく話せない英語話者になってしまった例」「両親ともに純粋な日本語話者でありながら、イギリスという圧倒的な英語環境のなかで育った結果、両親の努力の甲斐なく、日本語学習を嫌って完全な英語話者になってしまった」と、ややネガティブな書き方をされていたけれど*1、まあそれはそれで仕方がないやねえ。でもこうして素晴らしい日本語訳が読めるんだからいいのではないかと。翻訳者は『日の名残り』と同じ土屋政雄氏。

*1:もっとも、第二言語習得がテーマの本だからこういう書き方をしているのであって、悪意はないはず。ちなみにこの本はとてもおもしろい。