インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

王緝思氏講演会

  北京大学国際関係学院院長・王緝思氏の講演会、早稲田大学。演題は「東アジアの協力と新日中関係」……とはいえ、まあ、立場が立場の方だけにそれほど“敏感”なことはおっしゃらない。

  大学院の研究者(中国人)による逐次通訳がついていて、細かいところもあまり落とさずに忠実な訳出をされていた*1。素晴らしい。私もノートテイキングの練習をしながら講演を聞いていたが、途中で飽きてきたので(こらこら)要点を大まかにつかんでメモすることに。
  ひとつ目のテーマ「東アジアの協力」という部分では、各国の東アジアにおけるアイデンティティに差があるという話にからんで、

日本人なら「自分は日本人だ」という認識とともに「自分はアジア人だ」と言う人がいる可能性もありえますが、中国人にはありえません。中国人にとって「中国人」というのはすでに最上位の概念であって、ほとんど「地球人」と言うに等しいのです。

  という部分が笑いを誘っていた。確かにそうかもしれない、あの方々は(^^)。
  もう一つのテーマ「日中関係」の部分では、

日中両国はまだお互いが適応していく途上にあります。矛盾が蓄積している段階で、それがまだはじけるまでに到っていません。しかも双方が行っている批判は、その矛先がすれ違っています。矛盾が爆発することを歓迎はしませんが、そうなった後はもう少し冷静になることができるでしょう。その意味で長期的には日中関係の将来を楽観しています。

  と言っていた。もっとお互いハッキリものを言って、行くところまで行っちゃいなさいと。じゃないとこのこんがらがった関係はどうにもなりませんよと。リアリズムだなあ。
  王緝思氏は米中関係がご専門だそうで、同じく厳しい対立を経てきた米中関係との比較が興味深かった。いわく、

我々がアメリカと不仲の時でも、学者やブレーンの交流は多く行われていました。日中間にはそれが足りません。またアメリカの政権内部では中国系アメリカ人が閣僚を務めたりもしています。こういったことは今のところ日本ではまず考えられないでしょう。また民間、例えばNGO同士の交流なども日中双方でまだまだ足りないと思います。

  あとひとつおもしろかったのは、“大國是重點,周邊是首要,發展中國家是基礎。*2”という中国政府の全方位外交を象徴するスローガン。大国に重きを置き、周辺諸国は最も重要で、発展途上国は外交の基礎だっちゅうんだから、要するにどの国に対しても角が立たないように持ち上げているわけで大した意味はないんだけれど、こうしてスローガンに仕立てると何となく重々しくすんごい外交方針のように見えるという……(^^;)。それを王緝思氏自身が少々冗談めかして自嘲的に言っていたところがニクいな〜、と思った。

*1:ひとつだけ、「中国はまだ東アジアにおける覇権をもくろむ段階には来ていない。むしろ日本やアメリカのほうがその意志が強いように思える」という発言では、通訳者が微妙なぼかし方をしていたような。報道も入っていない内輪の講演会だったようだし、そのまま訳しても別に物議を醸すようなことはなかったと思うけれど。

*2:正確に覚えていない。確かこんな感じ。