インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

SPIRIT

  実在の武術家・霍元甲の子供時代から死までを描いた映画。主演の李連杰ジェット・リー)は、「武術に対する自分の考えは全てこの作品に盛り込んだ。今後はもうマーシャルアーツの作品は撮らないと思う」とまで述べていて、自らの武術映画の集大成と位置づけているそうな。
http://www.fearlessthemovie.com/
【ネタバレがあります】

  霍元甲は天津出身なので、映画には天津の古い街並みが登場する。天津びいきの私としてはこれがまたなんとも。古文化街とか估衣街とか広東会館とか、今も天津にわずかに残る当時を忍ばせる街並みが、この映画ではふんだんに出てくる。
  武術については私は全くの門外漢だからよく分からないけれど、ダイナミックな立ち回りを堪能できた。文字通り死闘が繰り広げられるのだが、ある太極拳の老師のお話によると、実際の武術というか拳法というか、とにかくああいう技は、一度身体にくらってしまうともうほとんど立ち上がれないくらいのダメージなんだそうな。だから映画のようにお互い技を繰り出して、いったん倒れるもののまた立ち上がって延々……という展開にはならないんだそうだ。一撃必殺、それで勝負あり、と。
  もっともこの映画では、武術のそういったパワー面よりむしろ精神性を重視するという姿勢が打ち出されている。霍元甲が設立した「精武会」のモットーである「武術家は徳育・体育・智育を備え、“自強不息*1”たるべし」にはじまって、「自分の最大の敵は自分自身」とか「憎しみで問題は解決できない。報復が報復を呼ぶだけ」などのメッセージが随所に織り込まれる。ラストでも中村獅童*2演じる田中安野は試合の不正をよしとせず、自ら負けを認めて試合場を後にするのだ。
  李連杰自身も「私は暴力を扱った映画を通して非暴力を訴えたい」と言っているのだが、ううむ、正直言ってちょっと牽強附会かなあという気がする。やはりこの映画の魅力の半分以上はエンタテインメント性十分の格闘技パワーにあるし、一方で深い精神性を語るにしては少々底が浅いような印象を持った。エラソーな物言いで申し訳ないが。
  ちなみにこの田中安野との死闘、日本人が汚い方法で中国人を打ち負かそうとし、それに対して観衆が拳を振り上げて“自強不息!”を連呼する、みたいな展開になって「あああ、またですか……」とちょっとうんざりしかけたのだけれど、最後は「日本人もいいとこあるじゃん」的な終わり方でホッとする。そんなところでハラハラしたりホッとしたりしたくないんだけれど。
  ラストの曲は、いまさら私がいやみを言う必要もないけれど、やっぱり周杰倫の“霍霍霍霍霍霍霍霍〜♪”が聞きたかったねえ。★★★☆☆。

*1:自らを不断に向上させるべく常に努力すること。

*2:彼の北京語は正直……ごめんなさい、「うぷぷ」と笑ってしまう発音だった。シリアスなシーンだけによけい。仕方ないけれど『無極』の真田広之みたいな人もいるわけだし、頑張れ〜!