インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

世界

  賈樟柯監督の新作。
【ネタバレがあります】

  北京郊外にある「世界公園」。世界中の名所旧跡を十分の一のスケールで再現したレプリカが並ぶ、チープでキッチュなことこの上ないテーマパークだ。そこでダンサーとして働くタオと、警備員として働くタイシェンの二人を中心に、北京に出稼ぎに来た青年たちの日常が描かれる。
  オープンしたばかりであるとか、例外的にリピーター獲得に成功しているとか、そんな一部の例を除いて、テーマパークというものは実に心すさむ場所だなあと思う。あちこちがどんどん古びて「まがい物感」を増していく一方で、それをなんとか糊塗しようとしているんだか、はたまたしていないんだか、なかばやる気を失ったようなスタッフが気の抜けた演技を繰り返している……そんなトホホなテーマパークを私も大陸でいくつか見たことがある。
  この「世界公園」は施設こそキッチュだが、舞台はけっこう豪華で迫力があって、社長は「来年の『春節聯歓晩会*1』にウチの舞台からの中継が入ることになった」と胸を張るくらいだ。それでもキッチュな感じは画面のあちこちからいやがおうにも漂ってくる。無機質な声を繰り返しているアナウンスとか、妙におどけた写真を撮りたがる観光客とか、華やかな舞台裏でのダンサーたちの下世話な会話とか、客の前でも平気で弁当食っている警備員とか、その「トホホぶり」は底なしの深さ。賈樟柯監督はうまい舞台を仕立てものだ。田舎から都会に出てきた青年たちが、めざましい北京の発展とはうらはらに先が見えない閉塞感に悩む場所としては、実に絶妙の舞台と言っていいと思う。このテーマパークは実在するらしいが、いや、経営者がよく撮影を許可したものだ。大陸の映画管理当局もね。
  そして主人公が「今年はなかなか雪が降らないね」と言っていたその北京に初雪が降った朝、物語はなんとも悲惨な結末を迎える。その朝の光景の撮りかたには思わずうなってしまった。映画であることを完全に忘れてしまうほどの圧倒的なリアリティ。冬にはまだ多くの家庭で使われている石炭の匂いが画面から漂ってくるかのようだった。この光景にとどまらず、北京郊外の建設現場や薄暗いオレンジ色の街灯に照らされる幹線道路など、いずれも大陸北方の都市らしい雰囲気がよく出ていた。
  もうひとつ、この映画でも賈樟柯監督の故郷である山西省のなまりが入った北京語が多く飛び交う。ほかにも福州あたりの言葉とか、ロシア語とか、出稼ぎに来た人たちが交わすお国なまりが映画に深みを与えている。こういうところを字幕に反映させるのは……やはり難しいのだろうなあ。お互いに全く通じない北京語とロシア語で会話するところなども切なくてよかった。賈樟柯監督の深い洞察力にあらためて脱帽した映画。★★★★★。

*1:日本で言えば大晦日の『紅白歌合戦』みたいな国民的番組。