インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

Turandot

メトロポリタン・オペラニューヨーク最後の夜はメトロポリタン・オペラ。演目はやっぱりこれしかないだろうというプッチーニの『トゥーランドット』だ。ネットで予約してあったチケットを窓口で受け取ってびっくり、前から三列目のほぼ中央だ。斜めすぐ前に指揮者が見える。まわりはいかにもブルジョワ〜(古い)という感じのセレブばかり。ああ、ネクタイしてきてよかった。開演までみなさんロビーのバーカウンターまわりで、シャンパンなどたしなんでらっしゃる。一杯十ドルだって。せっかくだから私も飲んだ。
舞台はとにかく豪華絢爛で、演技も歌もオーケストラの演奏も大迫力ですばらしかった。幕間が三十分近くはあったんじゃないかというくらい長くて、そのたびにみなさん、ロビーに繰り出しては飲んだり食べたり、はては食事したりしている。要するに歌舞伎の桟敷席のようなノリなのだな。
メトロポリタン・オペラトゥーランドット』は古代中国を舞台にした物語で、杜蘭朵(トゥーランドット)というお姫様のほか、紫禁城に住まう皇帝とか、姫をめとるために三つの謎解きに挑戦する韃靼国の王子卡拉富(カラフ)とか、ピン・ポン・パンという三人のコミカルな役人とかが出てくるなかなかおもしろい話……なのだが、全曲イタリア語でさっぱりわからない(英語でだってきっとわからないが)。前の椅子の背に英語の字幕が出るのだが、それを追っていてもつまらないので舞台に身を預けるようにして見ていた。
しかし……西洋人がイメージする古代中国というのは、そうか、こういう感じなのか。かなりエキゾチックなかおりのする紫禁城風景だった。あと序幕の群衆シーン(このシーンに限らず、俳優がものすごく多い。二百人はいたと思う)で、最下層の民衆が薄暗い中をうごめいているさまは、革命音樂史詩《東方紅*1の冒頭を思い起こさせる。
とてもすばらしかったんだけど、ひとつだけ残念だったのは、前に座った紳士が縦横とも二メートルくらいありそうな巨漢で、かなり見づらかったこと。まあこれは運だからしかたがない。オペラ劇場の一階席って段差が少なくかなりフラットなんだな。紀伊国屋ホールみたい。

*1:イデオロギーや歴史的意義はさておき、この音楽史劇はものすごい。大陸ならVCDやDVDが出ているはずなのでぜひともオススメ。