インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

肉(李師江/寶瓶文化事業/ISBN:9867883543)を読む。両岸三地で一部に熱狂的なファンがいるらしい大陸の作家・李師江の短編集。この人の作品を初めて読んだが、なんというか、ひとことで形容しがたい読後感。この本のタイトルにもなっている《肉》からしてかなりインパクトがあるが、ほかにも《糞便》とか《是誰幹了小姨》とか《有的壞蛋去戰爭,有的壞蛋去徵婚》とか、ものすごい題名が並ぶ。
李師江という人は福建省の田舎から北京に出てきて北京師範大学の中文系を卒業したエリートだが、どうも北京でそのままエリートコースに乗り続けるのがたえられずに作家の道を選んだらしい。自分の体験や心象風景をモチーフにしたらしい作品もいくつか含まれている。
日本でも『飢餓の娘』や『裏切りの夏』が翻訳されている英国在住の華人作家・虹影は、李師江のことを“是我們時代的沙林傑,具有真正的麥田守望精神!*1”などと絶賛したという。ううむ、たしかにひとり都会で、えらそうな能書きをたれながら、ぐじぐじ不満をならべて“他媽的”とか“shit”を多用する主人公たちは、どこかホールデン・コールフィールドに似ているかもしれない。しかしどこかお坊ちゃん的なホールデンに比べ、こちらの登場人物はもっとかなり厳しい現実の中に生きている。加えて大陸の現体制やアメリカなどの大国に対する強烈な皮肉。こういうところも『ライ麦畑』よりはずいぶん「ナマっぽい」。

*1:「我らの時代のサリンジャー。本物の『ライ麦畑……』的スピリットがここにある」。