インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

大陸一辺倒?

もう長い間視聴していないので今はどうだか知らないが、私が北京語を学び始めた当時、NHKテレビ・ラジオ「中国語講座」のテーマ音楽は《北風吹》だった。

北風(那個)吹,雪花(那個)飄,雪花(那個)飄飄,年來到。
風卷(那個)雪花,在門(那個)外,風打著門來門自開。
我盼爹爹快回家。歡歡喜喜過個年,歡歡喜喜過個年。*1

白毛女大陸的な情趣に富むとても美しい旋律で、聴くたびに水墨画のような風景が思い起こされるメロディ。この曲、大陸で知らない人はいないほど有名な革命現代芭蕾舞(バレエ)劇《白毛女(はくもうじょ)》のメインテーマだ。この作品は、貧農がブルジョア資本家や地主に対抗し、八路軍と一致協力して階級闘争に勝利するという内容*2で、主人公の喜兒(女性)が年越しを前に父の帰りを待ちわびて踊りながら歌うのがこの《北風吹》。
このバレエ劇、最後はまあ勧善懲悪でハッピーエンドと言えなくもないが、現代の感覚からすればずいぶん重苦しい雰囲気。いみじくも当時通っていた北京語学校のある若い先生(大陸のネイティブ)は、「なぜ、こんなに悲しい曲を使うんですか?」と言っていた。ほんの十年ほど前の話だ。
ううむ、例えば大陸のCCTV(中央電視台)で「日本語講座」が放映されていて、そのテーマ音楽が石原裕次郎主演の『黒部の太陽』(音楽:黛敏郎)のメインテーマです、と言ったら日本人の誰もが「なぜ、それ?」と感じるに違いない……みたいなもの?
私自身はこの《北風吹》という曲が好きだし、「中国語講座」がこの曲を使っていたこと自体をどうこう言う気はさらさらない。だが、この《白毛女》が日中国交回復前から双方の文化交流に積極的に取り組んできた松山バレエ団のレパートリーとしても有名な作品であったとか、文化大革命期にも上演を許された数少ない演目――“革命樣板戲(革命模範劇)”のひとつだった、などの背景を考えれば、政治的なバイアスがかかっていたことは否めないと思う。
まあ言語教育というものがそもそも政治的なバイアスと無関係ではいられない……と言ってしまっては身も蓋もないのだけれど。

*1:実際には歌はなく、このメロディだけ。

*2:本当はこんなに大雑把じゃなく、なぜ“白毛”なのかとか、もっといろいろ話の筋があるんだけど、割愛。