インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

言葉の常備薬

言葉の常備薬呉智英双葉社ISBN:4575297364)を読む。様々な言葉の裏に潜むエピソードや誤解・思い違いなどにツッコミを入れる、呉智英氏の「お家芸」が炸裂……、と思いきや、あれ、今回は何だかおとなしいというか常識的というか。いや、自らの主張を「暴論」と揶揄してみせるときでさえ、呉氏の論旨はいつも明快で常識的だったから別にかまわないのだが、どことなく円熟した「まろみ」のようなものを感じさせるのはなぜだろう。同じ言葉への鋭いツッコミを入れる高島俊男氏よりもさらに丸くなっている。クロスワードパズルの雑誌と『小説推理』に連載されたコラムを集めたものらしいから、雑誌の雰囲気や読者層に合わせたのかもしれない。
私は学生時代から呉氏のファンで、ほとんどの著作を買って読んできた。後年仕事で、とある団体の機関誌に部落差別関連の特集を組み、呉氏にコメントの寄稿を依頼したところ、しばらくして旧仮名遣いで書かれた断りのハガキをもらってしまったことがある。それからしばらくして、これまた仕事で作家の関川夏央氏にセミナーの講師を依頼したことがあって、そのときにうかがった話では*1、呉氏が旧仮名遣いで返事を出すときは、たいてい強烈な揶揄の意味合いが込められているのだそうな。あのころはまだまだ青っちょろい考えにこり固まっていたからね。今でもあまり変わらないかもしれないが。
そのころに比べても、今回のこの単行本はかなり「まるい」。添えられた中野豪氏のイラストレーションのほうが毒が効いてみえるくらいだ。

*1:関川氏は呉氏と親しい仲なんだそうだ。