インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

翻訳史のプロムナード

“この素っ気ない表紙のデザインがまた「みすず」。辻由美みすず書房ISBN:4622045621)を読む。
id:toraneko285さんが「翻訳関係書籍リスト」を紹介されていた。私もこれまで、一応この業界で口を糊する者のそのまたはしくれとして、なかば義務のようにして通訳や翻訳に関する本を片っ端から読んできたが、このリストの中にはまだ読んだことのない本がいっぱい。
辻由美氏のこの本も、翻訳に関する書籍の中でも特に有名な「必読書」だが、私はこれまで読んだことがなかった。やっとamazonで手に入れて読む。非常におもしろくて一気に読了。
まずは「翻訳はいつからあるのか」という翻訳者の歴史に触れた部分をワクワクしながら読む。特に中世アラビア文化圏が東西文化や宗教の交流・伝播に大きな役割を果たしたというくだり、そしてその一時期、現在は戦禍で混迷の中にあるイラクのバクダード(バクダッド)が一大翻訳センターだった史実……。とにかく人類の歴史の厚みと、そこで翻訳が果たしてきた役割に、いろいろな想像力をかき立てられる。
さらにこの本の白眉である中世から近代にかけての翻訳者列伝(中でも女性翻訳者に特にスポットが当てられている)、とりわけ歴史の闇に埋もれていた無名の翻訳家たちを「発掘」していくあたり、読み物としてもとても上質。参考文献の資料や人名索引も充実している。あの(?)みすず書房だから定価は少々お高いのが玉に瑕だけれど。