インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

科挙 中国の受験地獄』(宮崎市定/中公文庫/1984年)を読む。隋の昔から清朝末期まで連綿と受け継がれた官吏登用試験を描いた名著。ひとくちに科挙といっても、その前段階にあたる官立学校の入学試験で県試・府試・院試・歳試とふるい落とされ、さらに官吏になるための科試・郷試・会試・殿試を突破しなければならないというすさまじいものだったそうな。宮崎市定氏はその過程を事細かに解説していく。
先人の包括的な研究がほとんどなかったこの分野で、様々な文献を読み解きながらここまでまとめ上げるというのは、並大抵のことではないと思う。これだけ平易に解き明かすその背景に、いったいどれだけの知識や素養が積み重ねられているのかと嘆息するばかり。科挙の実際を描写するだけでなく、激しい競争の中で生まれた試験の際の怪談話や、試験に受かったもの・落ちたものの悲喜こもごもなども盛り込まれていて飽きさせない。
答案は公平を期すために名前の上に紙を貼って匿名とし、また筆跡で誰かを判断できないようにするために答案をいったん全て他の紙に書き写して採点に回したなど、科挙の試験方法からはこの民族の合理性に対する飽くなき追求があちこちに見て取れる。官吏登用試験を万民に開放した*1ことそのものも含め、もともと彼の地の人たちには、その根底に合理性や論理性を尊ぶ精神風土があったのだ。今の人たちは、近現代の過酷な体験とあまりに身近な欲望に目がくらんでいるのとで、ずいぶんその伝統を失っているとは思うけれど*2

*1:実際には多少は金銭的に余裕がなければ受験そのものが不可能だったのだが。

*2:ま、「お前に言われたかないよ」とおっしゃるでしょうけど。