インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

『読ませる技術』(山口文憲/ちくま文庫/2004年)を読む。薄い本なのでさらっと読める。筆者は「うまい文章を書く秘訣はないが、まずい文章を書かないコツはある」と言い、いろんな実例を示しながら具体的に「技術」を紹介している。特に「文章に必要な六つの要素*1」や文章をリライトする際に「気をつけることアラカルト」など、基本的なことばかりだが、さすがにこういう本を書くだけあって説明が非常にわかりやすい。
本の裏表紙に、編集者がつけたとおぼしき「読むだけで名文家になれる!」という惹句が載っている。また見当はずれな説明をつけたものだ。山口氏がこの本で本当に言わんとしていることはその正反対、「誰にでも文章が書けるわけではない」ということだ。
もちろん誰がどんな文章を書いてもよい。だがそれが個人的な文章の範疇をこえて、多くの人が読むに耐える文章になるためには、言葉を換えれば、お金が取れるような文章を書くためには、持って生まれた資質が必要だ*2
誠実な山口氏はこの身も蓋もない、しかしプロの物書きなら誰もが知っていながら口をつぐんでいる現実を、そう直裁には言わずにこんこんと説いている。資質のない人間が不幸にも小説家や文筆家を目指して、大事な人生を棒に振ることのないように。

*1:テーマ・ロジック・プロット・スタイル・ギミック・エピソード。

*2:ずいぶん以前のことだが、マンガ家の吉田秋生氏が「これを言うとみんなから白い目で見られるんだけど〜」的な前置きをしつつ、しかしハッキリ「マンガ家になるには向き不向きがある」と言っていた。例えがおもしろい。「水に溶ける身体をしている人は泳いじゃいけない」だって。