インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

言葉を軽視してはいけないのではないか

Albert Mehrabian氏の「3V」からは、コミュニケーションの際に音声やパフォーマンスが非常に重要な役割を果たしていることを教えられる。それはよく分かるのだが、インターネットで検索してみると、言葉の占める割合が驚くほど低いことに「わが意を得たり」と、この学説を換骨奪胎している人が多い。中には「トンデモ」に近いものもあって……。

国際的に有名な、Albert Mehrabian博士の「Silent Messages」(1971年)によると、コミュニケーションに必要なのは「イントネーション38%、単語7%、ボディランゲージ55%」と言われています。世界的に認められている事実です。単語を知らないから話せないと思っていた方は、ぜひ自信を持って欲しいです。
トレンドリーダーインタビュー*1

確かに語彙量の不足を理由に引きこもっていては、外国語の上達はおぼつかない。けれど言葉(verbal)を「単語」としている点など、曲解ではないかとツッコミたくなる。だがまあ、これは学習者にエールを送っているのだから、そんなにムキになる必要はないのだけれど。

アメリカの社会学者であるメーラビアンという人が発表したデータによると、第一印象を決定させる要素として、外見55%、音声38%、話の内容は7%という割合になるのだそう。つまり、話の内容よりも、清潔感のあるスーツと髪型、メイク、キチンとした挨拶で好印象が残せるというわけ。まさに最初の瞬間が肝心。会話は二の次です。
闘うオンナのSWANな日々*2

ここでは視覚(visual)が外見、それも第一印象に最も影響する要素になってしまっている。こういう精神論に持ち込むのは牽強附会じゃないのかなあ。もちろん第一印象がよいに越したことはない。普段はずぼらな私だって通訳の仕事に向かう時は身だしなみにも気を遣う。けれど、だからといって「会話は二の次」ということはなかろう。どんなに身だしなみがよくても、話の中身がなければどうにもならないじゃないか。

何かを伝えたい、でもことばを使うことはできません。顔の表情や身振り手振りで伝えなければなりません。とはいえ、人の気持ちは、ことばに出して表さなくても伝わるものです。アメリカの心理学者、アルバート・メーラビアンの有名な研究があります。人はコミュニケーションをとるとき、どのような要素をどのような割合で使うのでしょうか。
非言語(表情、態度など):55%  近言語(声の調子など):38%  言語:7%
communication、とは「分かち持つ」という意味です。ことばを交わさなくとも、心を通わせることができるのですね。
Weekly Jishukan*3

「ことばを交わさなくとも、心を通わせることができる」……う〜む、なんだかオカルトである。そんなテレパシーのようなコミュニケーションが本当に可能なのだろうか。
概してみんな「言葉じゃないんだ」ということをやけに強調しているのが気になる。メーラビアン氏の学説は、こういう安易なビジネスマナーや人生訓などの権威づけに利用されやすいのではないか。


恥ずかしながら学生の頃、「劇研」に入っていた。そこでよくやっていた「さくら」というエチュードがある。これは役者がセリフに頼るあまり身体表現が貧しくなることを防ぐための訓練だ。
具体的にはふたり一組になって、即興の寸劇を演じる。発していいセリフは「さくら」だけ。「こんにちは」も「どこかに行こうよ」も「お前なんか嫌いだ」も、すべて「さくら」だけで表現する。演者は言葉に頼れないから、否応なしに声や身体表現を豊かにしてコミュニケーションを取らざるを得なくなる、というわけだ。
だが今思い出してみて、この訓練は失敗だったのではないかと思う。演者たちはそれこそ必死に自分の伝えたい内容を「さくらさくら! さーくらさくらっ、さぁくぅらー」などとやるのだが(はたから見るとアホみたいですな)、多分に自己満足の傾向が強かった。
表情や身体表現はそれなりに鍛えられ、ある意味ダイナミックになっただろう。だがそれは大袈裟でリアリティのない、奥行きに欠ける安易な表現方法を身につけてしまっただけなのかも知れない。おかげで私は、その後しばらくいわゆる「新劇調」の立居振舞が染みついてしまい、対人関係でずいぶん損をしたと思う(笑)*4
セリフへの偏重を防ぐとはいっても、言葉を軽視すべきではなかった。言葉をいきいきと表情豊かに(喜怒哀楽含めて)伝えるために、すべきことは他に山ほどあったような気がする。

*1:http://www.trenders.co.jp/ad/pickup/shokai-100.html

*2:http://escala.mycom.co.jp/reg/swan/bn/040127/

*3:http://www.jishukan.ed.jp/weekly_js/0312/0312_38.html

*4:やたら上気した面持ちで「ナターシャ!」などと叫んでいるやつは、周りに引かれてしまうということですね。