インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳は基本的に一人称で話すがゆえに……

わりと知られていないことなのだけれど、通訳者は基本的に一人称で話す。これはつまり、訳すときはその発言者になりかわってしゃべるということだ。「……と言っています」とか「この人の言いたいことはつまり……」のように三人称で訳すのは下策なのである。もちろん話し手の語気もできる限り反映したいと思うから、発言者が怒り口調なら、訳すときも(程度問題だが)できるだけ怒りを込めた物言いにする。こうして、その会議で一番当事者性の薄い私が舞台の一番前に押し出されるという奇妙な状態が生まれる。
そうやって双方のオーラを直接浴びていると、けっこう身体にこたえる。よい意味でも悪い意味でも、気持ちのこもった言葉というのは物理的な力を持っているのだなあと実感できる。
私も自己防衛策として、ときに訳しながら顔つきで相手に精一杯「私じゃなくて、隣のご主人様がこう言ってるんでやんすよ〜」というテレパシーを送っている(アホですな)が、成功した試しがない。まあ、私個人の意見を言っているように勘違いしていただけるなら、それは通訳がうまく行っている証拠なんであって、通訳がまずくてなかなか話がかみ合わないよりは喜ばしいことなのかも知れないが。