インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

勉強会

  通訳者の先輩方と勉強会。今回は翻訳メモリと字幕翻訳に関して。翻訳メモリはよく翻訳ソフトと混同されるのだが(かくいう私も混同していた)、翻訳メモリそれ自体は翻訳作業をしない。いうなれば自分が過去に翻訳した文章のデータベースみたいなものだ。新しい案件に取り組むとき、過去の同じような文章や用語を参照できれば大幅な効率アップが図れる、と。
  ……だがここだけの話、効率アップはあくまで内側の「企業秘密」にしておきたいなどと考えてしまう。なぜって、作業効率がアップしたのだからとただでさえ安価な翻訳料がこれ以上叩かれたらやっていけないから。翻訳の効率がアップしました、翻訳の時間が短くなりました、それにつれて翻訳料も減らされました、では自分で自分の首を絞めるようなものではないか。
  英語翻訳の世界ではTRADOSなどがかなり導入されてきているそうだが、北京語(←→日本語)翻訳の世界で使っている方はいるのだろうか。
  勉強会の後は「並木藪そば」へ鴨南蛮を食べに行った。分厚い鴨の肉が数切れと、鴨肉のつくねが入っている。長ネギは白い部分だけの短冊。正統派江戸前鴨南蛮といった感じ。鴨南蛮は好きでよく食べるが、ここの鴨肉は食感がややレバーに似ている独特のもの。というより、いつも食べているアレは合鴨で、こちらが本物の鴨肉なのだろうな。結構なお値段だが、とてもおいしい。

3Q得Orz

   buttwさんのところで、台湾の大学入試に「Orz」が出題された話題を知る。“哈日”もここまできたかと驚いたが、こうした表現が台湾ですんなり受け入れられるのは、きっとマンガ文化が一役も二役も買っているのだろうなあ。
  額に描かれた縦線が困惑や幻滅やしらけた雰囲気を表す*1とか、浮き出た血管を表す十字のようなマークがあるだけで怒っている顔になるとか、そうした「マンガ言語」とでもいうべきものを共有しているベースがあるから、アスキーアートや顔文字やこの「Orz」などもおもしろがって使ってもらえるのだろう。
  もっともbuttwさんによれば、この「Orz(失意体前屈)」は台湾で本来の「失意」「がっくり(いや「がっくし」か)」という意味から派生した意味に変化しつつあるようだとのこと。入試問題に出た「3Q得Orz」は“感謝得五體投地*2”となり、「Orz」が「心から感服」の意味になっている。華人にとって跪く行為は日本人以上に特別なニュアンスを持つらしい*3から、中文において「Orz」という文字列(?)が持っているパワーは日文のそれを上回るのかもしれない。

*1:ちびまる子ちゃん』などが典型。

*2:日本語にすると、う〜ん、「感謝感激雨あられ」という感じ。ちなみに“3Q”は「サンキュー」なんだそうだ。“得”は“感謝”がどれほどの程度かを示す“五體投地”を導くための助詞。

*3:例えばドタバタコメディの北京語劇を上演するとして、「お金貸して、お願い!」というセリフを跪いてやったら、日本人なら「吉本新喜劇」的なオーバーアクションくらいにしか思わないが、華人ならあまりにも卑屈で尊厳がおかされている……くらいの重さを感じるのではないか。ん〜でも、ジャッキー・チェンはその演技で結構「跪きまくっている」ような気がするが。