インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ほん

解らない人には解りはしません

白洲正子氏の『お能・老木の花』を読みました。能を紹介する本は色々と読みましたが、ここまで繊細で、かつ一種の気魄というか情念のようなものを帯びつつ迫ってくる文章は初めてでした。間に挟まれた芸談『梅若実聞書』も実に読み応えがありました。『梅若…

煙のゆくえ

ぶらりと立ち寄った書店で平積みになっていたこの本、面白そうなので買ってみました。わら半紙のような風合いの紙にコーティングした感じの表紙で、カバーも帯もなく角がカーブの裁ち切りになっている素敵な装幀です。K氏の遠吠え 誰も言わへんから言うとき…

君たちはどう生きるか

久しぶりに吉野源三郎氏の『君たちはどう生きるか』を読み返しました。手元にある岩波文庫版の奥付を見ると「1982年11月16日 第1刷発行」となっています。今の白い表紙に肌色の背*1がついたカバーではなく、パラフィン紙がかかった古い仕様です。君たちはど…

大雑把な質問

『報道ステーション』を見ていたら、ワールドカップの決勝で負けたことについて記者が岩清水梓選手に「サッカー人生の中で何番目の悔しさですか」とインタビューをしていました。岩清水氏は困惑しつつも「三番以内には入りますね」と答えていました*1が、こ…

どんぶり勘定人間への福音

仕事の帰りに日暮里のエキュートにある本屋さんに立ち寄ったら、『正しい家計管理』という本が目に留まりました。帯には「どんぶり勘定は低収入より恐ろしい」とあります。何という秀逸な惹句。「割れ鍋に綴じ蓋」ならぬ「どんぶりにどんぶり」な私たち夫婦…

母語を学ぶことと外語を学ぶこと

平川克美氏の『グローバリズムという病』を読みました。株式会社をはじめとしたビジネスの論理だけで生き方を考えることに警鐘を鳴らしていて、快哉を叫びました。地域を捨て、文化を捨て、母語を捨て、様々な差異を捨てて「グローバル」なるものに溶け込む…

麻痺のその後2

顔面神経麻痺(ベル麻痺)を発症して約ひと月半ほど。症状はあいかわらず「横這い」ですが、まあ何とか生活しています。顔面神経麻痺といっても、顔面の麻痺そのものは単に顔の表情筋が動かせないくらいで、別に痛みがあるわけでもありません。抜歯をしたと…

働き方革命

私はいま「フリーランス」という働き方をしています。去年の三月いっぱいで、それまで勤めていた職場を辞めましたから、ちょうど一年経ったことになります。仕事を辞めた当初は再就職の道も考えてハローワークに通ったり、数多くの転職サイトで求人に応募し…

成長から成熟へ

中国人とお仕事で一緒になると、ときどき“不成熟”というお叱りを頂戴することがあります。いえ、お叱りと言っても本当に怒っているわけではなく、なかば諧謔とユーモアと老婆心を込めて「成熟してないね」とおっしゃってくれるのです。私は昔から実年齢に比…

親の家を片づける

先日新聞を読んでいたら「親家方(おやかた)」という初耳の言葉が載っていました。「親の家を片づける」で略して「おやかた」。う〜ん、正直あまり秀逸なネーミングじゃないなと思いつつも、この言葉を冠した書籍が出ていることを知り、Amazonに行ってみて…

炭水化物が人類を滅ぼす

実に刺激的な一冊でした。最初の100ページくらいは「糖質制限」のお話でダイエット本みたいな雰囲気ですが、その後そもそも食とは何か、家畜とは何か、草食動物と肉食動物との違いから、生命の進化、農耕の起源……と壮大な人類史を俯瞰する様相を呈してきます…

再び「英語を学ぶ人々のために」

年が明けて、また今年も仕事を頑張ろうという気持ちの時に、よく読み返す文章があります。戦後間もない昭和二十三年二月に書かれた、中野好夫氏の『英語を学ぶ人々のために』です。中野氏は、敗戦後に人々の英語熱が急激に高まったことを「むろん悪いことで…

あれこれ考えずにはじめる

ラジオデイズで小田嶋隆氏の『タコ足ライティング・オリエンテーション「人生とビジネスに効くコラム」』を聴いていたら、「そうそう、そうなんだよね!」と膝を打ったお話がありました。 http://www.radiodays.jp/item_set/show/718 書いている時のほうが頭…

きのう何食べた?

よしながふみ氏のマンガ『きのう何食べた?』の最新第八巻が届きました。はじめて「限定版」というのが出ていたので、こちらを買ってみました。限定版は特製「ビニールカバーXmasバージョン」と第一巻から第八巻までの各巻収録メニューがまとめられた「…

『フリーズする脳』と『キャリアポルノは人生の無駄だ』

フリーズする脳 この本は脳の「ボケ」という状態を、器質的に脳が損傷を受けて起こる認知症やその他の症状とは明確に区別して、器質的には問題がないのに長期にわたる生活習慣で徐々に「ボケ」を進行させてしまう可能性という観点から解説しています。つまり…

今していることをおざなりにして

数日前、内田樹氏のブログに就活に関するエントリが上がっていました。ご自身もツイッター上で「暴論」と断ってらっしゃるエントリ、togetterにも賛否両論がまとめられています。 「就活なんか、するな。卒業するまでは大学生として大学での活動に全力を尽く…

こんにゃんでいーぶんか

年末にコンビニで買い物をした時に何となく手にとって買った『クーリエ・ジャポン』。そこに掲載されていた小道迷子氏のマンガ『日本猫ワタナベのニャンでも比較文化論』でこの単行本を知りました。 こんにゃんでい~ぶんか 小道氏は台湾に留学したこともあっ…

宇宙に関するあれこれ

あけましておめでとうございます。いつもと変わらずほとんど「食っちゃ寝」のお正月です。学校の仕事って、学期中は授業が間断なく続いていくので、まとまった休みを取るのはほとんど不可能で、結局お盆とお正月の時だけ世間様より長い休みを頂戴することに…

北京1966

編訳者のおひとりと一緒に忘年会をやって、その時に「こういうのが出たんだけど」と頂いた本。『北京1966―フランス女性が見た文化大革命』*1です。ページをめくって目に飛び込んできた写真にびっくりしました*2。 口絵として収められている40枚ほどの写真は…

パリが呼んでいる

じゃんぽ〜る西氏のマンガ、新刊です。帯に「あとがきで衝撃の告白!」とあるも、ま、ただの惹句だからと全く気にせず読みすすめ、あとがきで……わはは、ホントに衝撃の告白でした。どんな内容かはネタバレになるので書かないでおきます。 氏のマンガは、以前…

電子書籍版・夢野久作『能とは何か』

KindleのPaperWhiteが欲しいな〜と思っていたんですが、よく考えたらiPod、iPhone、iPadに加えてさらにポータブルデバイスを持ち歩くのも何だし、できるだけシンプルにひとつだけ持ち歩くとしたらやっぱりiPhoneだし、幸い視力はまだよくて老眼にもなってい…

雲のうえ: 一号から五号

北九州市の地域情報紙『雲のうえ』の創刊号から第五号までが合本となって、ムックの形で発行されるそうです。早速Amazonで予約してきました。 私は北九州市に実家があるんですが、この『雲のうえ』は帰省するときに乗るスターフライヤーでもらった時に知りま…

「型」を身につける

シノドス・ジャーナルに興味深い記事が載っていました。『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』という本の序文を転載したものだそうですが、学校(特に高等学校以降の教育)で何を教えるかについて、以下のように書かれています。 私は経…

ストップ!!ひばりくん!コンプリート・エディション

コンプリート・エディションということですけど、これまでに何度買ったんでしょう、このマンガ。『少年ジャンプ』連載当時にリアルタイムで単行本を買ってたはずですし、その後も文庫版や自選集みたいなのも買った覚えがあります。全部売ったか人にあげたか…

きのう何食べた? 3

昨日発売になった、よしながふみの『きのう何食べた? 』第三巻。 時折『モーニング』で読んでるので既読のエピソードも多かったんだけど、いや〜、よしながふみのマンガは読ませるなあ。『大奥』などに比べると、よしなが氏が半ば肩の力を抜いて好きな料理の…

西太后とフランス帰りの通訳

通訳や翻訳に関する本はその圧倒的多数が英語に関するものなので、書店で平積みになっていたこの文庫本を見つけた時は、思わず中身も確かめずに買ってしまいました。 (ネタバレがあります) 清朝末期の外交官である裕庚卿の娘・徳齢は、今でいう「帰国子女…

ワイナート

ワイン好きなら誰もが知っている雑誌に『ワイナート』があります。なぜか美術出版社という発行元から出ている雑誌です。 個人的にこの出版社には思い入れがあって、学生時代はここの『美術手帳』を定期購読していました。もっとも、講読はしていても熟読はし…

中国語教育とコミュニケーション能力の育成

学会などでの論文や中国で出版されたものを除くと、日本で中国語教育に関する本が出ることは極めて珍しいです。これまでだって、長谷川良一氏の『中国語入門教授法』や輿水優氏の『中国語の教え方・学び方』くらいしかありませんでした。というわけで、胡玉…

中国人じゃない

今年の芥川賞候補に、楊逸氏が中国籍として初めてノミネートされたという。 http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20080107itw2.htm?from=top この件に関して中国メディアの反応を見に行ってみたら、芥川賞に関してはまだ見つからないのだが、先…

佐藤可士和の超整理術

キリン「極生」や国立新美術館や「UT STORE HARAJUKU.」などのアートディレクションで有名な佐藤可士和氏の本。「整理術」となっているが、単なる身の回りの整理術にとどまらず、思考法や発想法、人間関係の作り方や仕事の進め方にまで敷衍された氏の哲学が…

英語を学ぶ人・教える人のために―「話せる」のメカニズム

第二言語習得研究の入門書。とても分かりやすい。これまでの研究で明らかにされたこと、まだ分かっていないことがハッキリ示され、その上で、現時点でこれらの研究成果を踏まえた学び方や教え方があるとすればどんなものかを解説する。 なかでも、文法の習得…

憂い顔の「星の王子さま」―続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ

『聖書』、『資本論』につぐベストセラー本と言われるサン=テグジュペリの『星の王子さま』。半世紀にわたる独占的出版権が切れた二〇〇五年以降次々に新訳が出版されたが、この本はそれら新訳版と、もとの内藤濯による訳本を俎上にのせ、翻訳の不備を細か…

北京三十五年――中国革命の中の日本人技師

「解放」前の1944年から文革後まで、北京に住み続けたある日本人技師の回想記。ネット上の古本屋でようやく手に入れて読んだ。 国民党時代の北京から、共産党入城、三反・五反運動、反右派闘争、大躍進、そして文革と、さまざまな近現代史の本で読んできたこ…

どうしてもわからなかった おいしさのひみつ

中国の“家常菜(家庭料理)”+粉モノ好きにはたまらない本をたくさん出しているウー・ウェン氏の新たな野心作。『北京小麦粉料理』の「手取り足取り版」とでも言えばよいだろうか。代表的な粉モノ料理の、特に麺(皮)にこだわって、コツを惜しみなく伝授す…

中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧

中国から世界各地に亡命したウイグル人への聞き取り調査をまとめた本。いずれの亡命者も「東トルキスタン」独立運動に関与したとして中国政府から苛烈な弾圧を受けている点が共通している。ところが、彼らの証言によれば全くの冤罪も少なくない。東大大学院…

中国の衝撃

野崎歓氏の『われわれはみな外国人である―翻訳文学という日本文学』を読んでいたら、この本が絶賛されていたのでアマゾンのマーケットプレイスで購入。論文集なので、なまなかな気持ちでは読み込めないのだが、中国革命の位置づけに関する論考が特に面白かっ…

村上春樹にご用心

読み始めてすぐ「これはどこかで読んだことがある」と思っていたら、主に内田樹氏のブログに書かれていた文章を集めた本だった。 というわけで、村上春樹論だけれど、丸ごと一冊を書き下ろしたものではない。氏のハードディスクを「村上春樹」で検索して出て…

チャンさん家の台湾ベジごはん

当節、中国語にハマっているマンガ家といえば、小田空に小道迷子。 小田空は現在『中国語ジャーナル』に《鼓励同学报》という連載(マンガというよりコラムだが)を持っている。文体や語り口は「〜じゃん」「〜だよね」なのだけれど、行間から漂う独特の雰囲…

『お言葉ですが……』異聞

『お言葉ですが……』は週刊文春に連載のコラムで、たまに同誌を買って読むこともあったけれど、ほとんどは後から文庫本でまとめ読みしてきた。ところが週刊文春での連載は、昨年で打ちきりとなっていたことを初めて知った。ううむ、情報が遅いなあ。 で、その…

ここのところ、高島俊男氏の本を五冊ほど立て続けに読んでいる。『お言葉ですが……』文庫版の未読ぶん数冊と、『座右の名文―ぼくの好きな十人の文章家』にこれも文庫版が出た『漱石の夏やすみ』。 『座右の名文』は、高島氏がいちばん大好きな著作家ベストテ…

心に残る話しかた

『中国語ジャーナル』の九月号に、塚本慶一氏へのインタビューが掲載されている。 いつも通訳訓練に使えるような音声素材を探しているので、これは! と思ってさっそく聞いてみたのだが、ううむ、残念だけれど使えそうにない。 アルクがなぜこういうインタビ…

中国の不思議な資本主義

バルトークの舞踏組曲を思わせる題名のこの本、また中国脅威論+中国バッシングの時流に乗ったものかと思いきや、とてもマジメでかつ読みやすい内容だった。 著者の東一眞氏は読売新聞の特派員として北京に住んだことがあるそうで、まずはその体験や観察から…

村上春樹のなかの中国

中国語圏における村上春樹作品の受容のされ方について論じた本。昨年三月のシンポジウムで、著者の藤井省三氏が「現在『二十世紀東アジア文学史における村上春樹』という国際共同研究が進行中」とおっしゃっていたが、そのまとめの第一弾が出たということだ…

日中中日翻訳必携

「こってり中華の中国語をさらさらお茶漬けの日本語へ」。何ヶ月か前『中国語ジャーナル』に載っていた「中日翻訳のコツ」(だったかな)を含むノウハウ本。 「外国語のレベルは母語を上回ることはない」とか、「語学の進歩は(階段状に)段階的」とか、翻訳…

呼吸する音楽

『考える人』の夏号に載っている、アンナー・ビルスマへのロング・インタビューがすばらしい。ビルスマは弦楽器の弓使いを「呼吸」だと言う。アップボウ(弓先→弓元)で吸い、ダウンボウ(弓元→弓先)で吐くのだそうだ。演奏者としての呼吸もあるのだろうけ…

世界史のなかの満洲帝国

著者のあとがきによると、東洋史の中にきちんと位置づけられた満洲帝国史研究はいまだ出ていないのだそうだ。「傀儡国家」の歴史書となれば、政治的思想的バイアスがかかってしまうのは避けられないからで、「日本の罪を告発する、罵声の飛び交うような本ば…

街場の中国論

内田樹氏の『下流志向』と『先生はえらい』を読んだので、新刊のこの中国論も読んでみた。うまく乗せられてしまったような気もするけれど、相変わらずおもしろい語り口でぐいぐい読ませる。 文革から台湾問題、環境にいたるまでいろいろと話題豊富なのだが、…

留学で人生を棒に振る日本人―“英語コンプレックス”が生み出す悲劇

アメリカと日本の大学の違いを紹介し、安易な留学計画に潜む落とし穴を縷々解説した本。 約四千校もあるアメリカの大学には、私立の名門校のほか、日本の公立大学とはずいぶん趣の異なる「州立大学」、「全人教育」を目的としたリベラルアーツ・カレッジ、誰…

金印偽造事件—「漢委奴國王」のまぼろし

あの「漢委奴國王」という文字が刻まれた、国宝・金印が、実は江戸時代の半ばに偽造された贋作だったという主張。読み始めてすぐに「黒幕」が誰だか分かってしまうが、推理小説を読んでいるみたいでかなりおもしろい。

斎藤佑樹くんと日本人

何だかかなり恥ずかしいのだが、昨年夏以降、斜め読みも含めて「斎藤佑樹関連本」を何冊か読んだ。中でもこれは出色の一冊。 「明鏡止水」にして「去華就実」、「一服の清涼剤」と言い止める一方で、市川雷蔵や三浦友和を持ち出してたたみかけ、返す刀で写真…