インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

始めてみて初めてわかる

旅先で「極東ブログ」さんの記事を読んでいたら、こんな本が紹介されていて興味を持ったので、Kindle版を買って飛行機内での時間つぶしのお供にしました。

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finalvent.cocolog-nifty.com

finalvent氏のおっしゃるとおり、この本は典型的な「自己啓発本」なのですが、なかなかに含蓄のある一冊でした。finalvent氏は「一読して読者の心に響くのは、そのうちの2、3個くらいかもしれない。でも、その2、3個が、かなり決定的だろうと思うのだ」ともおっしゃっていますが、これも同感です。

私の心に響いた2、3個のうちのひとつは、冒頭に出てくる「何を書くかというアイデアは、『考えているとき』にではなく、『書いている最中』に浮かぶ」という点です。これはもう本当にそのとおりで、私など毎日ブログを書いている時、まさにこの法則に身を委ねていることを実感しています。何を書こうかと考えてもあまり案は思いつかないのに、書き始めると次々に書きたいことが湧いてくるのです。

コラムニストの小田嶋隆氏がこんなことをおっしゃっています。同じ法則を述べていらして、これはある種の「真理」をついているのだと思います。

(原稿を書くときにいつも気づくのは)自分は、物を書いている時のほうが頭がいいんだなっていうこと。頭がいいんだなって言うとちょっとアレですけども、結局、文章を書くことによって気づくことがすごくあるっていうことですよね。(中略)


まずあらかじめ頭の中にあることを伝えるために外に出すっていうふうに考えがちだけども、実は書いているうちに、書いている段階で「ああそうだ」と気がつくことのほうがずっと多いんだと。


ラジオデイズ『タコ足ライティング・オリエンテーション「人生とビジネスに効くコラム」』
http://www.radiodays.jp/item_set/show/718

しかも上述した『Think clearly』のロルフ・ドベリ氏は、この法則が「人間が行う、ありとあらゆる領域の活動に当てはまる」とも言っています。これも深く頷けるところで、どんな仕事も勉強も趣味や遊びも、とりあえず始めてみないとわからない、というか、始めてみて初めて次にどうすべきかが分かるし、その過程で徐々に身について行く、あるいは収穫できていくんですよね。最初から到達点まできれいにルートが見えていることはほとんど、いや、まったくないと言っていいと思います。

通訳学校でもよく「私はまだまだ実力が……などと言っていて仕事を承けないでいると、いつまでたっても上達しない。どんどん現場で学んでいくべき」などと言われるのですが、同じことを言っているのだと思います。一歩踏み出してみて初めて見える風景みたいなものが確かにあるんですね。

はい、今日のこのブログも、最初に書こうと思っていた内容とは違うところに来てしまいました。最初はSNSのことを書こうと思っていたのですが……でもまあそれでもいいのです。SNSのことはまた改めて書こうと思います。

台湾の「お節介」おじさん

台湾の台北で、丸一日分ぽかっと時間が空いたので、基隆に行ってみることにしました。台北駅から各駅停車で45分ほど、“雨都”の異名を持つ港町基隆は今日も雨でした。そういえば以前に来たときも春の雨が降っていましたねえ。お目当ては奠済宮というお廟近くの屋台街で「栄養三明治(栄養サンドイッチ)」を食べることだったんですけど、この日は何かのお祭りだったみたいで、紙銭がぼんぼん焚かれ、電飾きらめく祭壇では大音量で祈りが捧げられていました。屋台も全部お休み。

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ちなみに「栄養三明治」はこういうのです。台湾のB級グルメのなかでも、個人的には一二を争うおいしい食べ物です。

qianchong.hatenablog.com

仕方がないので、街をぶらぶら歩きながら基隆駅まで戻って、また台北行きの各駅停車に乗り込みました。私たちが乗ったのは基隆から二駅先にある八堵駅行きで、そこで宜蘭方面からやってくる列車に乗り換えて台北へ向かうつもりでした。二駅しか走らない電車なので車内はガラガラなんですけど、座席に座っていると、ホームから見知らぬおじさんが大声の台湾語で何やら怒鳴っています。何だろうなと思ってよく聞いてみると、どうやら「あんたら台北に行くんじゃないのか、この電車は八堵までしか行かないぞ」と言っているみたいでした。

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なるほど、私たちが外国人観光客だと踏んで、わざわざ親切に教えてくださったわけですね。台湾では何も話さなくても外見で外国人、あるいは日本人だと見抜かれてしまうのです(中国語を話すと、たいがい香港人だと思われます)。台湾では(台湾に限りませんが)ときどきこういう「お節介」に遭遇します。若い方はほとんどありませんけど、おじさんとかおばさんとか、一定年齢以上の方からはけっこう話しかけられる。それもこちらが中国語や台湾語を解するかどうかなどお構いなしに。私はこういうのが本当に大好きです。

私も東京のターミナル駅などで、地図やスマホを片手に困惑気味な外国人旅行者を見つけると、時間の許す限り声をかけるようにしているんですけど、それはこうした台湾などの「お節介」おじさん・おばさんたちに触発されてのことです。今日は今日とて、バスの中で珍しく外国人だと思われなかったらしく、そばに座っていたおばあさんから「このバスは“台大醫院(台湾大学病院)”に行きますかね」と聞かれたので「あと三駅ほどです」などとお教えしました。

こういう「見知らぬ同士が気軽に声を掛け合う」ってのは、東京で暮らしているとかなりの勇気が必要なんですけど、異国ではなぜか簡単にできちゃうんですよね。そういうのもまた旅の楽しみかもしれません。

観光名所の人混みに酔う

フィンランドから帰ってきて、東京の人の多さに酔いました。歳を取ったからか、昔は何ともなかった人混みがとても苦手になったのは自覚していたのですが、これだけ人の少ない場所ばかり訪れたあとに東京に戻ると、その「人圧」とでもいうもののあまりの違いに、身体が拒否反応を起こすみたいです。自分もその人混みを作り出しているひとりなんですから、勝手なものではありますが。

さっき試みに「人圧」で自分のブログ内を検索してみたら、この一年あまりで五回も弱音を吐いていました。「人混みに耐えられなくなってきた」と。それ以前はまったく書いていなかったのですから、これはもうここ数年のうちにそういう心の病を抱えてしまったということなのかもしれません。

qianchong.hatenablog.com

人混みが苦手ですから、旅に出ても人の多い観光名所にはあまり行きたくありません。ここ数年は台湾に何度か出かけましたが、いずれも離島や、離島のそのまた離島など、なるべく人のいないところを選んで行くようになりました。360度見回しても人の姿が見えない場所にくると、心底解放されたような気持ちになるのです。だったらそれこそ人跡未踏の荒野や原野にテントでも担いで行けばいいんですけど、そこはそれ夜には快適な宿に戻ってゆっくりパソコンをひらいてブログでも更新したいという……やはり勝手なものですね。

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今夏も台湾の離島、澎湖諸島の友人が今年から始めた民宿に泊まりに来ました。いつもはスクーターを借りて郊外を走り回っているのですが、今年は細君も一緒に来たので身体のことを考えて車を借りました。台湾は国際免許証が通用せず、日本台湾交流協会が業務を委託しているJAFによる「免許証の翻訳」がそのかわりになります。

www.jaf.or.jp

スクーターを借りるときはいつもこの“翻訳本”で借りていたので今回も持参しましたが、さる筋からの情報で国際免許証も持参したところ、これだけで車を借りることができてしまいました(離島だから管理が緩いのかしら……あまり公表しちゃいけないことのかもしれませんね)。ともあれ、この車で島の郊外ばかりゆっくりゆっくり、それこそ制限速度を守って風景を楽しみながら走りました。澎湖も馬公市の中心街は車が多いですが、それ以外はあまり走っていなくて「ストレスレス」です。

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それでも友人のすすめで湖西郷にある「摩西分海(モーゼの海割り)」を見に行きました。ここは海岸から沖にある小島までの間に、干潮時に砂州(というか岩の州)が出現するという観光名所です。以前にも来たことがあるのですが、その時は満潮でほとんど人がいませんでした。今回は友人から砂州の出現時間を教えてもらって、その時間に行ってみたのですが……。

澎湖諸島の観光客が全部集まってきたんじゃないかと思えるくらいの、ものすごい人混みで驚きました。車を停める場所を探すのに苦労し、人混みをかき分けて海岸を見るのに疲れ、現れた砂州もまあ写真で見たとおりで、あああ……やっぱり来るんじゃなかった。観光名所なんて、事前に写真で見ていた風景を確認するだけの場所だと自分に言い聞かせていたはずなのに。早々に退散してしまいました。

先日のタリン旧市街でも感じたことですが、有名な観光地にはもう行かないようにしよう(というか、もう心身ともにムリ)と改めて心したことでありました。

しまじまの旅 たびたびの旅 106 ……縮み行く日本のお手本として

フィンランドを旅行したのは二度目で、特に夏のフィンランドは初めての体験でしたが、いろいろ「いいな」と感じる部分がありました。もちろん、そうはいっても「隣の芝生は青い」の諺通り、とかくよそ様の国度はよく見えがちですし、旅人ならではのノスタルジーも多分に含まれてしまうことは分かっています。

また私のような外国人はお金を払って快適な旅を手に入れているだけで、実際にそこに住んでみれば、特に社会的に必ずしも恵まれているとは言いがたい立場で住んでいれば、また様々な問題に直面するであろうことは想像できます。さらに冬の雪や氷に閉ざされたフィンランドにはこの季節とは違った大変さが(その反対に魅力も)あるのでしょうけど、とりあえず今回の旅行で感じたことを記しておこうと思います。

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涼しい

昨年は北欧諸国にも前例のない猛暑が襲って、元々エアコンなどの設備がない(そもそも必要なかった)ために大変だったという話を留学生のみなさんから聞いていました。それで少々身構えていたのですが、実際には本当に涼しく湿度が低くて快適な気候でした。むしろ日によっては寒いくらい(日本の秋から初冬ぐらい)で、慌てて上着やセーターなどを買い込んだほどです。

特に、湿度が低いというのは、毎年東京の猛暑と湿気にうなされている私としては本当に快適に思えました。湿度が低いからか、空気が澄み切っていて、白くかすんだ感じがまったくないため、ものの輪郭や風景が遠くまでハッキリ見えるのです。コントラストがとても強いというか。この爽やかで透き通ったような空気感はどこかで味わったことが……そう、中国の哈爾濱(ハルビン)を夏に訪れたときと同じような感覚がしました。

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人が少ない

いわゆる夏のバカンスの季節だったからなのかもしれませんが、とにかく人が少ないです。田舎は言うまでもなく街の中も。首都であるヘルシンキ市内はさすがに観光客も加わって人が多めですが、それでも普段東京で朝から晩まで人混みにもまれて暮らしている私からすると、驚きの人の少なさです。人が少ないというのはこんなにも快適なものなのかと改めて感じました(自分もその人のひとりではあるのですが)。世界でいちばん人口の多い国や、人口密度の高い国ばかりお付き合いしてきたので、この開放感はまるで別の星に来たかのようです。

満員の電車やバスがないことはもちろん、街全体に人の気配がとても希薄で、騒々しさとはほとんど無縁です。これが清涼な気候と相まって、ストレスの少ない環境を作り出してくれます。駅や車内などのアナウンスもほとんどなくて、あっても次の駅名くらいだというのも(これはフィンランドに限りませんが)、普段過剰なアナウンスの洪水の中で暮らしている身からすると夢のように静かな環境でした(長距離列車では挨拶みたいなアナウンスもありました)。

人が少ないからでしょうか、車の数も少ないです。今回はレンタカーで都会から田舎まで走り回りましたが、タンペレのような大きな街でさえとても車が少なく、田舎に至っては前後にまったく車が見えないとか、五分も十分も対向車とすれ違わないとか、とにかく車が少なくて運転のストレスもほとんど感じませんでした。もちろん渋滞というものにも一度も巻き込まれませんでした。

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相互尊重

これもフィンランドに限った話ではないのですが、お店の入り口などで前の人がドアを開けたまま待ってくれるとか、横断歩道ではほとんどといっていいほど車が止まってくれるとか、どんなお店に入っても笑顔で対応してくれるとか(スーパーやコンビニなんかはさすがに別でしたが)、なにかこう人々がお互いにお互いを尊重する気風が感じられました。内心でどう思っているかはもちろん分かりませんが、少なくとも表面的にイライラした対応とか、民族差別的な対応などには一度も接しませんでした。

またこれは別のエントリで書きましたが、観光地でのゴミの少なさにも驚きました。街中もそこそこきれいですが、ただ、タバコのポイ捨てはけっこう見かけました。またヘルシンキの中心部はさすがに乱れた感じの場所もありますけど、それでも全体としてとてもきれいな、というか秩序の取れた街のたたずまいに感じられました。私はこうした様々な社会の側面にも、人々の相互尊重とでもいうべき精神を感じます。なにかこう、社会をよきものとして維持しようという人々の意思みたいなものが通底しているように感じられたのです。

電車内におけるベビーカーや自転車の置き場所がかなり広く取られていること、犬などのペットとともに電車に乗れることなども、相互尊重のひとつの表れのように思われました。一度など私はベビーカー置き場に立っていて、そばにいた男性から「あのベビーカーに場所を譲ってくれる?」とやんわりたしなめられました。こうした場所を作ることができたり、それをみんなが尊重できたりするのも、ひとつには人の少なさがそれを可能にしているのかもしれません。日本の特に東京などの大都市は人が多すぎて、こんなに「余裕」のある設定にはできないのかなと。インフラも、そして人の心も。

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合理的な仕事のありよう

これもフィンランドに限らない、というか日本が逆に世界の中でもかなり特殊なのかもしれませんが、都会も田舎も、お店の営業時間がとても短くて過剰な仕事をしていないように感じられました。コンビニであっても24時間営業などというところはほとんどありませんし、平日はともかく土日はもっと開いている時間が短くなります。もちろん夏の長い夕べを楽しむバーや飲み屋さんみたいなところは遅くまで営業していますが、そのぶん開業時間も午後や夕方からなどと遅いです。

公共交通機関も、早朝や深夜などは極端に本数が少なくなります。私はそれに気づかず、日本と同じ感覚で行動の予定を組んだりして、かなり焦った場面がありました。仕事の制服みたいなものも、警察などはさすがに統一されている感じですが、そのほかの職業はかなり自由な感じ。サラリーマンもみんながみんなダークスーツにネクタイなどということはないみたいです。

スーパーも人がいるレジの横にセルフ会計のレジが多く設置されていますし、レジ係の人も椅子に座っています。品物のバーコードを次々に読み込んで目の前のベルトコンベアに載せるだけ。あとは品物がだーっと流れていって客が自分で袋に詰めます。日本のスーパーのように、係の人が立ちっぱなしで、接客のためにしゃべりっぱなしで、買い物かごから精算用かごに一つ一つ品物を移すといった膨大な仕事が一切発生していません。こういう合理性は本当に素晴らしいなと思いました。

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もちろん閉口したこともあるけれど

そりゃフィンランドだって天国じゃありません。閉口したこともいくつかあります。そのひとつは路上というか屋外での喫煙率の高さです。老いも若きも男性も女性も、かなりの人がタバコを吸っていて、副流煙に悩まされることは日本の比ではありません(これもフィンランドに限りませんけど)。そのかわり屋内はどこでもきっちり禁煙が守られていて、日本のように禁煙といいつつ不完全極まりない分煙じゃないかとがっかりする、みたいなことは一切ありませんでした。

あと、食事はとてもおいしいけれど、私には塩辛すぎるかなと思うことが多かったです。加工食品も味つけの濃いものがけっこうあって、フィンランド人は塩辛いものが好きなのかなと思いました。日本でも中国でも北の地方は料理の塩味が濃いですが、フィンランドも北の国だから塩辛いものが好きという因果関係があったりするのかな?

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またこれは閉口というほどでもありませんが、場所によっては英語が通じにくいと感じるところもありました。まあこれは私みたいな中学校一年生レベルの英語話者に語る資格はないんですけど、フィンランドはどこでもほとんど英語で大丈夫かというと、そうでもないんだなというのが今回の発見のひとつでした。また逆に現地の方でもフィンランド語が苦手そうにお見受けする方もいました。

フィンランドの人口は増加傾向にあるそうですが、そのひとつの理由は移住者の増加なのだそうです。確かに街には多様な民族の人々が暮らしている様子でしたし、こう言っては失礼ですが比較的低賃金と見られるお仕事に従事されている方にはそうした移住者とおぼしき方々も多いようにお見受けしました。そういった方々はフィンランド語があまり得意ではないという状況があるのかもしれません。書店でフィンランド語の教科書など物色したときには様々な言語版(アラビア語対応のフィンランド語教科書などもありました)のものが売られていたのもそうした背景があってのことなのでしょうか。

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それにしても人口わずか550万のフィンランドが、なぜこんなに高度な社会秩序を維持できるのか、その点に興味を持ちました。もちろん通常の商品で24%という消費税や、税金の国民負担率が6割超であるなどに代表される税制があるからなのでしょう。それでも国土面積は日本とほぼ同じくらい(日本の九割くらいです)なのに、それほど少ない人口で国を運営していけるという現状には、今後人口が減り続け、同じように森林面積の多い日本が今後向き合わなければならない課題のヒントがあるのではないかと思いました。

もちろん日本は現人口が多いために様々なインフラが桁違いに多く、産業の構造も異なり、急峻な山々が多くてそのための治水や砂防や森林管理の仕事の大変さもまったく違い、地震や火山や台風などの自然災害とも常に向きあっていなければならないという点もフィンランドとは大きく異なります。ですから単純に引き比べてもあまり意味はないのかもしれません。それでもあの驚きの人の少なさと静けさの中で、高度な民主社会を実現させている(女性の社会進出など日本とは比べものにならないくらい進んでいます)フィンランドの現実に魅了されてしまったというのが正直なところなのです。

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しまじまの旅 たびたびの旅 105 ……おしゃれではあるけれど

ヘルシンキに戻って、帰国する前にもうひとつ公衆サウナに行ってみようと思い、有名な「Löyly(ロウリュ)」を予約しておきました。そう、ここのサウナだけは観光客にも人気の高いスポットで、予約が必要なのです。2時間限定でロッカーとタオルとサウナマットつきで19ユーロ。普通の公衆サウナの倍近い値段です。

www.loylyhelsinki.fi

ヘルシンキのフェリーターミナル近く、海岸沿いに建てられた前衛的な形の建物が「ロウリュ」で、サウナの他にカフェレストランみたいなのもあり、海辺の風景を楽しみながらお酒も飲めるというおしゃれな場所になっています。しかし……事前に多少は予想していたのですが、ここは公衆サウナというよりは観光客向けの「おしゃれスポット」という感じで、私には何だか場違いな印象でした。

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肝心のサウナもかなり温度が低くて、名前の通り「ロウリュ(焼けた石にお湯をかけて蒸気を発生させ、温度を上げる)」はできますが、いろいろな国の観光客がいて、高温を望まない方も多いみたい。実際私がロウリュをしたときには暑さに耐えきれず出て行った方がいました。「申し訳ないですね」というと、隣の観光客が「フィンランドのサウナは熱いけど、スウェーデン式のサウナは温度が低いんですよ」と教えてくれました。

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それにここは高級SPAみたいな雰囲気なので、男女が一緒のサウナ室を使うため、水着を着用しなければなりません。これもちょっと公衆サウナ的な情趣からは遠いかなと思いました。まあこれは人それぞれの好みですけれど。

それから数年前の開業当時はおしゃれスポットとしてかなり人気だったようですが、現在は完全に観光客向けという感じになっていて、施設もけっこうガタが来ているというか古びてきているような印象を持ちました。ひとことで言ってあまり手入れがされていないというか清潔ではないのです。まあ私も観光客のひとりなんですけどね。

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外気浴をする際には階段をつたって目の前のバルト海に飛び込むことができます。ここだけはなかなか面白いと思いましたし、実際気持ちよかったですが、そこはそれ大都市ヘルシンキのすぐそばですから、海の水はあまり爽やかな感じではありませんでした。やはり私は、地元の方が日常的に使う公衆サウナで、ちょっと申し訳ないと思いながら隅のほうにおじゃまさせてもらうという感じのほうが好きです。

しまじまの旅 たびたびの旅 104 ……街とのご縁と電動キックボード

エストニアのタリンには都合二泊三日の予定で出かけたのですが、急遽予定を早めて二日目にヘルシンキへ戻ってきてしまいました。タリンの旧市街があまりにも観光客でごった返していて、ちょっと意気消沈しちゃったからですが、思えば今回のタリン行きはいろいろとアクシデントがありました。

まずはヘルシンキ・タリン間のフェリーチケットを予約しておいたのですが、たまたま日曜の早朝だったために民泊の宿からフェリー埠頭まで公共交通機関がなく、タクシーもまったく通らず、時間的には間に合うので歩いて行こうとしたら何とまったく逆方向に歩いていて、そのあとバスを乗り継いで最後は走ったものの、あと数分というところで間に合いませんでした。旅先の方向感覚だけは自信があったんですけど……老いたかしら。

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それで仕方なく次の便を改めて購入してタリンに向かうも、今度はタリンの民宿の鍵が受け取れず、電話やメールで家主に連絡を取るもつながらず。実際には家主はロンドンにいて、友人に鍵を託していたそうですが、その友人が昼寝をしていて寝過ごしたらしい。結局受け取り場所に指定されたカフェで、予定時間を大幅に遅れて受け取ることができました。Airbnbはずいぶん利用していますが、この種のトラブルは初めてです。

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それでも気を取り直してサウナと「青銅の兵士」だけは行きましたが、帰りに土砂降りの大雨に見舞われ、Airbnbの部屋も「看板に大いに偽りあり」でかなり不便な部屋でした。それでますます意気消沈して「ヘルシンキに帰ろうかな」と。まあひとことで言うと「この街とはちょっとご縁がなかった」という感じです。そういうことって、旅をしていると時々あるんですよね。トラブル(というほどのものでもないけど)が重なるときは重なる。こういう時は無理して旅を進めないのが吉、というのが私の経験則です。

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それで、予約していたタリンクライン(タリン→ヘルシンキ)のフェリーチケットを、窓口で交渉して一日早い便に変えてもらい、首尾よくヘルシンキへ戻ってきました。ヘルシンキのフェリーターミナルからトラムや地下鉄を乗り継いで民泊の宿まで帰ってもよかったのですが、ちょっと疲れていたのであまり歩きたくなくて、これを機会にシェアサイクルならぬシェア電動キックボードを試してみることにしました。

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ヘルシンキタンペレの街では、時々電動キックボードに乗った人がすーっと走り抜けていって「ああこれが噂の……」と気になっていたのです。いくつかの会社が競っているようですが、そのうちのひとつ「TIER」のウェブサイトで説明を読んで、スマホにアプリをダウンロードし、ユーザー登録とクレジットカードの登録をフェリーの中で済ませました。ちなみにウェブサイトの説明は英語があるんですけど、アプリ自体はフィンランド語しかないみたいです。

www.tier.app
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それでもアプリは感覚的に使えるのでとても簡単です。起動したら、自分の近くにあるキックボードが地図上に出てくるので、一番近いもののところまで行ってNo.を確認して「ALOITA MATKA(旅を始める)」を押します。「下り坂では20 km/hを超えないように」との注意が出て、もう一度「ALOITA MATKA」を押すと、「AJO ALKAA…(運転開始)」となって音が鳴り、乗ることができるようになります。

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片足をキックボードに載せて、もう片足で軽く地面を蹴って、右手のところにあるレバーを親指で下げると走り出します。ブレーキは左手。かなりスピードを出すこともできて便利ですが、安全を考えると、これはやっぱり自転車用のヘルメットがあった方がよさそうです(ウェブサイトではヘルメットをかぶるよう推奨されています)。

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使い終わったら、道端に「乗り捨て」ます。スマホアプリの「PÄÄTÄ MATKA(旅を終える)」を押すと、「他人の邪魔にならないところに停めてね」という注意が出て、もう一度押すと「KIITOS(ありがとう)」とともに使用時間と料金が表示され、「VARMIS(確認)」を押して終了です。

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料金は5分間乗って1.95ユーロ(約230円)ですから、けっこう割高です。ヘルシンキの中心部だけなら公共交通機関のデイチケット8ユーロで一日中何度でも乗り放題なんですから。ただ、ちょっとした移動、例えばトラムやバスの停留所から行きたい場所までの往復などにはとても便利だと思いました。乗り終わったらすぐにメールで領収書が届きます。

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ただし、キックボード自体にサスペンション機能がほとんどないので、ヘルシンキの中心部に多い古い石畳の道路などはかなりガタガタして乗りにくいです。あと、やっぱり少々危険な乗り物であることには変わりない(自分自身もですけど、人にぶつかったりする危険も)ので、気をつけて乗った方がいいですね。

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それから、中国でもシェア自転車が一時期社会問題化しましたが、ヘルシンキの街もあちこちにこのキックボードが乗り捨てられていて、ちょっとこの光景はどうなのかなとは思いました(そこまで無秩序な感じもしませんでしたが)。タンペレの街ではバッテリーが切れたとおぼしきキックボードが延々「ピッ、ピッ……」と警報音を発している光景も目にして、あれも近隣の住民には迷惑じゃないかなと思ったり。便利といえば便利ですけど、日本では規制が強くてたぶん普及は無理……でしょうね。

しまじまの旅 たびたびの旅 103 ……タリンのサウナと旧ソ連兵士像

ヘルシンキからフェリーで約二時間、エストニアの首都タリンにやってきました。フィンランド語もそうですが、エストニア語はもっと読めません。異国にやってきた感満載です。でもエストニア語とフィンランド語はかなり近しい関係にあるとかで、ところどころ読めるものがあります。例えばドラッグストア(薬局)を意味する「apteek」はフィンランド語で「apteekki」とかなりよく似ています。

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小雨がぱらつくあいにくの空模様でしたが、とりあえず旧市街を観に行ってみるも……どこもかしこも観光客だらけ(という私も観光客のひとりですけど)。中世を思わせる古い街並みは確かに雰囲気がありますが、正直に申し上げてこの「観光地観光地したところ」はあまり好みではないんですよね。

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というわけで、すぐに民泊の宿に荷物を置いて、まずはすぐ近くにある公衆サウナ「Kalma Saun」に出かけました。エストニアもサウナの「本場」なんだそうで、こちらはとても有名な老舗だということです。11ユーロ払って中に入ると、軒並み太った素っ裸のおじさんたち(失礼)が肉やら魚やら乾き物やらをテーブル一杯に広げてビールで酒盛りの真っ最中でした。

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もらった鍵の番号のロッカーに荷物と服をしまって、サウナへ。こちらのサウナは二種類ありました。一つは床から壁から天井からすべてタイル張りで六畳ほどの小さな部屋。ここは下から熱い蒸気が噴き出してくる仕組みでした。そしてもう一つは伝統的なレンガの釜で大きな石を熱しているタイプ。こちらは「ロウリュ(エストニア語では何というのかしら)」をして、みなさんヴィヒタ(白樺などの木の枝を束ねたもの)でばんばん身体を叩いています。

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サウナハットがかわいいです。ついでにスイカ冷やしてるのもなかなか風情がありますね。

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今回いろいろと行ってみた公衆サウナと違っていたのは、サウナ室の手前に大きなプールのような水風呂があったことです。あら嬉しや。でもかなり「ぬるめ」の水温でした。それでもほてった身体にはかなり気持ちいいです。そして何度もサウナと水風呂とロッカー室で涼むのを繰り返してから、みなさんに倣ってビールを飲んでみました。カウンターで注文したら「どれ?」と聞かれたので「いちばん有名なのはどれですか」と聞いて、この「A.LeCoq」というのを買いました。2.5ユーロ。

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やっと一息ついたので、ビールを飲んでから向かうには少々申し訳ないと思いつつも、もうひとつタリンで行ってみたかったところにバスで向かいました。それは郊外の戦没者墓地の中にある「タリン解放者の記念碑」という銅像です。

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この兵士像は、第二次世界大戦における旧ソビエト軍の兵士を顕彰したもので、「青銅の兵士」あるいは「タリン解放記念碑」としてもともとタリン中心部に設置されていました。ところが旧ソ連の一共和国だったエストニアソ連崩壊後にかつての「西側」との関係を強め、かつての「暗い過去」を思い出させるこうした像を街の中心に据えておくのはいかがなものかという機運が高まります。

そして2007年、ついにこの像を撤去して郊外の戦没者墓地に移すことになったのですが、これに反対するロシア系住民と警官隊が衝突して死傷者を出す事態に至りました。同時にIT先進国・電子国家として有名なエストニアに大規模なDDoS(分散型サービス拒否攻撃)というサイバー攻撃が仕掛けられ、様々なネットワークが麻痺する事態に。一説にはロシア政府が関与したとも言われています。

www.afpbb.com

私はこの話に関する講演を通訳学校の「ノートテイキング」の授業で使ったことで興味を持ち、もし機会があったらこの記念碑を訪れてみたいなと以前から思っていました。さびしい墓地の一角に、無数の戦没者の墓標に取り囲まれるようにして青銅の兵士は立っていました。なるほど、確かにかなり殺風景な場所にうち捨てられたように立っています。第二次世界大戦に様々な思いを抱くロシア系住民の憤慨も分かるような気がしましたし、同時に旧ソ連のくびきから逃れて独自の国家建設を急速に進めてきたエストニアの人々の、その過去を洗い流したい気持ちも分かるような気がしました。……って、サウナでビール飲んだ後のセリフじゃありませんね。ごめんなさい。

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しまじまの旅 たびたびの旅 102 ……「川口」で車とお別れ

北カルヤラ地方のヴァルティモ(Valtimo)から、カルヤラの中心都市ヨエンスー(Joensuu)まで一気に100km以上を南下しました。ほとんどまっすぐの道に、両側は針葉樹の林が延々と続いて、何十キロもほとんど風景が変わりません。高速で車を走らせているのに、あまりに単調だと眠くなって危ないので、スマホSpotifyと車のスピーカーをBluetoothで連動させて、好きな曲ばかり聴きながら走りました。

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途中、風景がきれいだというコリ国立公園の「Ukko-Koli」という場所に寄り道してみました。駐車場から無料のケーブルカーが丘の上まで伸びていて(といっても乗車時間1分ほどの短いもの)、その先にカフェやお土産屋さんなどがあり、そのまた先の階段を上ったらこの絶景です。

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ピエリネン湖というかなり大きな湖と、そこに点在する島々、そして果てしなく続く森林。すぐ先はかなりの高低差がある断崖になっているんですけど、ほとんど看板も柵もありません。そういえば先日ハイキングをした「Kalajan Kierros」でもほとんど見かけませんでした。わずかに「お子さんに注意」程度の小さな看板があったくらい。こういうの、要は自己責任ということで一見冷たそうですが、自立と自律を重んじているような気がして、私はいいなと思いました。

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そのあとヨエンスーまで車を走らせました。ヨエンスーは「joki(川)のsuu(口)」という意味だから、ここはフィンランドの「川口市」なんですね(これはフィンランド語の先生のネタ)。少しだけ中心街をあるきました。何かのイベントをやっていて、小さな女の子たちがバレエを披露していました。

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エンスーから飛行機でヘルシンキに戻ることにしたので、ここまで一緒に走ってきた車を空港で返しました。何だか名残惜しいです。オペルのコルサくん、本当にありがとう。例によって小さなヨエンスー空港のレンタカー会社には誰もいません。会社に電話してみたら「レンタルしたときの書類と車のキーを、カウンターにある穴に入れといて」とのこと。普通レンタカーを返すときはガソリン満タンにしてあるかとか、新しい傷はないかとか確認するんじゃないかと思うんですけど、そういうのは一切なしでした。ま、何か問題があれば後から請求しますってことなんでしょうね。

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エンスー空港から、フィンエアーの国内線プロペラ機でヘルシンキに戻ってきました。ヘルシンキは高いビルもなく小さな都市という感じ(フィンランドの都市はどこも高いビルがあまりないみたい)ですが、それでもずっと森と湖の田舎ばかり回ってきたので、ものすごい大都会に戻ってきたような気がします。

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しまじまの旅 たびたびの旅 101 ……先進的なリサイクル機械と牧歌的なカルヤラ料理

クオピオからさらに東を目指して、車をひた走らせます。その前にクオピオの「生活」で出た瓶や缶などをスーパーでリサイクルに出しました。たぶんあるだろうと予想して大きなスーパーに行ったら、果たして「Pullopalautus(瓶の回収)」という表示が。

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隣の人に倣って、見よう見まねで機械に瓶や缶やペットボトルを入れてみると……おお、自動で仕分けされた上にリストが表示され、OKのボタンを押すとデポジットの代金が記されたレシートが出てきます。これはスーパーのレジで金券として使えるのです。素晴らしいシステムですね。

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さて、クオピオを後にすると周囲はどんどん田舎になっていって、時たま現れる街もほんとうにこぢんまりとした佇まい。幹線道路だって前後にほとんど車が走っていないような状態です。

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クオピオで食べたムイックが本当においしかったので、もう一度食べたいなと思っていたら、休憩に寄ったスーパーの駐車場に「Voissa Paistettuja muikkuja」(たぶん「バターで焼いたムイック」みたいな意味だと思います)という看板の屋台がでていました。

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どうやって注文したらいいか分からなかったのですが、とりあえず「一人分」と言ってみたら、ハンバーガーを入れるような紙のパックにどっさり盛ってくれました。う〜ん、そんなに要らないと言ったんですけど「これが一人前だから」とおじさん。こんなにたくさん食べきれるかしらと思ったのですが、この焼きムイックも本当においしくて、あらかた平らげてしまいました。ムイックはマスの仲間なんだそうですが、食べた印象はワカサギのフライという感じです。

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そんなこんなでついにカルヤラ(カレリア)地方に入りました。もう少し行けばロシアとの国境という場所です。今日はヴァルティモ(Valtimo)という田舎町のそのまた郊外にある農家を利用したB&B(ベッド&ブレックファスト)に泊まります。ここはフィンランド政府観光局の公式トラベルガイド「VisitFinland.com」に載っていた記事で見つけた宿です。

www.visitfinland.com

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B&Bなんだけど、夕飯も希望すれば出してくれるということで、周りに何もない田舎なのでお願いしました。野菜たっぷりのサラダが二種類に、カルヤランピーラッカ(カレリアパイ)とライ麦パン、それにゆで卵を練り込んだものと、ハーブを練り込んだもの二種類のバター。さらにメインで羊肉のローストが出ました。カボチャのパンケーキと、高菜みたいな野菜の炒めたのが添えてあります。

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これがとても素朴だけれど、どれも今までに食べたことのない独特の味わいでとてもおいしかったです。サラダはハーブや花が多用されていて香りが豊か。羊肉はほとんどクセがなくてびっくりするほど柔らかく、カボチャのパンケーキと「高菜いため」との相性も抜群です。「この(カルヤラ)地方の伝統的な料理なんですか」と聞いたら、そうだと言っていました。お勧めしてくれたビールも、カルヤラ地方の中心都市ヨエンスー地ビールみたい。

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www.honkavuori.fi

食事の後に、離れにあるサウナに入るかと聞かれたので「もちろん」と答えると、「一緒にビールはどう?」と別の地ビールを勧められました。

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ビールを持ってサウナへ。温度は少し低めですが、とても心地よいサウナでした。夕焼けを眺めながら涼みました。

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翌朝はビュッフェ形式の朝食がついていました。これも野菜や花を多用したおいしい食べ物ばかり。ヴィッキーという名前の飼い犬が、何度も私の膝のところに顔を載せてくるのは謎でしたが(単に親愛の情を表しているだけで、食べ物を欲しがっているわけではなさそう)。

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この宿は予約したときには「朝食つき」ということだけだったんですけど、結局夕食と地ビール二本とサウナも楽しませてもらって、特に追加料金は取られませんでした。どういうシステムなんだろう。お客さんは私の他に、フランス人のご夫婦だけ。とても静かで鄙びた環境で、部屋にはテレビすらないですけど、こういうのもいいですね。

www.puukarinpysakki.com

しまじまの旅 たびたびの旅 100 ……クオピオのムイック

スオネンヨキからさらに車を北東へ走らせて、湖に囲まれた小さな都市クオピオ(kuopio)にやってきました。泊まるのは、これもAirbnbで探した、郊外の丘の上にある一軒家です。ベッドルームにリビング、キッチン、バストイレはもちろん、バスの奥に家庭用サウナ室までついています。これで一泊7000円ほど。物価の高いフィンランドですけど、こと泊まる場所に関してはホテルよりも民泊のほうが断然お得な気がします。事前のやりとりが少し必要なのと、到着するまで「本当に鍵を受け取れるのかしら」的な多少のドキドキ感はありますけど。

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クオピオでは、まず郊外の丘の上に立っているプイヨタワーという展望台に行きました。ここはもう観光客しかいないような場所ですけど、屋上の展望台から見えるクオピオの街はそれはそれはきれいでした。カッラ湖に囲まれるようにして小さな街が広がっていて、その周囲にはまた十重二十重に森と湖が連なっています。冬は雪と氷で白一色になるんでしょうけど、夏のこの時期はあくまでも穏やかで、湿度もとても低いので本当に快適です。

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その後市内に戻り、パーキングメーターで「路駐」をして、クオピオの老舗とおぼしきレストランに行きました。クオピオの名物は湖で獲れる小さなイワシのような淡水魚「ムイック(Muikku)」の料理で、そのフライやスモークなどが人気だそうです。これもカヤックのガイドさんに教えてもらったのです。

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ムイックのフライに、マッシュポテトと生のトマトにキュウリ、そこにレモンが添えられただけのシンプルなプレートを注文しました。フライにディルの刻んだのが乗っているくらいで、本当に素朴な一皿なんですけど、ムイックは淡水魚独特のクセなどもまったくなく、とてもおいしかったです。揚げてある(もしくは揚げ焼きしてある)からか、ムイックは骨ごと全部食べられました。

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民泊のキッチンには料理道具もたくさん揃っているので、夕飯は自炊することにしてスーパーでいろいろ買い込みました。お惣菜屋さんに並んだおいしそうな料理も、どう注文したらいいか迷いつつ簡単な英語でやりとりして、サラダやサーモンのスモークなどを小分けで売ってもらいました。

あと、普段はあまり飲まないんですけど、今回は「自宅」にサウナがあるので、ビールも。それと少しワインを買おうと思ったのですが、スーパーのお酒売り場にはビールはあるけど、そのほかのアルコール類は一切置いてませんでした。なぜだろう……としばし考えて、酒屋に当たるフィンランド語「alko」を思い出したので検索してみると、近くにお店がありました。

どうやらビール以外のアルコール類は別に専門の酒屋さんが売るシステム(?)になっているようです。そういえば台湾も酒屋さんは小売店がスーパーなどとは別にありました。よく分からないけど、アルコール度数が高いものを子どもに売らないとか、何かの配慮があってのことなのかもしれません。

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「自宅」に帰る前に、これも老舗らしい揚げパンやさんに寄りました。工房の横に販売部みたいなカウンターだけのお店があって、この店の名物の、「Lihapiirakka(ひき肉の揚げパン)」を買いました。ロシアのピロシキっぽい雰囲気です。これは晩ご飯用に取っておいて、そのあと市が立っている広場まで行ってアイスクリームを食べました。

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フィンランド名物の「世界一不味い飴」と言われる「サルミアッキ(salmiakki)」味があったので「Saanko kupin salmiakkijäätelöä?(サルミアッキのアイスをカップで)」と言ったら通じました。たぶん文法的には間違ってるような気がしますが。真っ黒なこのアイスは「いかにも」ですが、サルミアッキリコリス(甘草)味で、私はリコリスが好きなので大丈夫。そしてこのアイスも、ほんのり塩味が効いていて、とてもおいしかったです。

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「自宅」で家庭用サウナのスイッチをいれ、しばらくして暖まったらお湯をかけて「ロウリュ」をしながら入りました。この家庭用サウナ、とても簡単で、こんなのが自宅にあったらいいですねえ。何度もサウナに出入りしながら、裏庭の草花を眺めつつ涼んでビールを飲み、そのあとスーパーで買い込んだ食材と揚げパンで夕飯にしました。こんな感じで、その街に暮らすような旅が楽しいです。

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しまじまの旅 たびたびの旅 99 ……中央フィンランドならではの風景

カヤックツアーのガイドをしてくださった男性が、帰りがけに地図をくれて「もし時間があったら、このハイキングコースに行ってみるといいよ」と教えてくれました。風景がとてもきれいなんだそうです。それで、スオネンヨキからクオピオに向かう前に行ってみることにしました。

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カヤックツアーの場所と同様、舗装されていない道をしばらく進んだ先に駐車場があって、そこからハイキングコースが奥に延びています。簡単な地図をもらっていたので「Kalajan Kierros」というコースを確認して歩き始めました。

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いきなり圧倒的なこの森林。ハイキング客もまったくいなくて、またもや圧倒的な静寂に包まれています。直線的に上に伸びる針葉樹、そここに横たわる古い倒木、樹の表面や岩にへばりつく苔などの地衣類、下草に混じって咲いている色とりどりの小さな花。この雰囲気……何かにそっくりだと思ったら、そうか、先日ユバスキュラの美術館で見た佐藤裕一郎氏の絵そのままなのでした。

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そのまま進むと湖があって、そばのコテージみたいな場所ではどこかのご家族がバーベキューをしていました。その光景を横目に木道が設置された湖畔を進むと、またもや圧倒的な森林。ほんの時たま、他のハイキング客とすれ違いますが、ほとんど誰にも会わず、何より木道やルートを示す矢印などの他に人工的なものが何ひとつ目に入りません。

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そういえば、ゴミが落ちているのを一度も目にしませんでした。みなさん必ず持ち帰るようにしているのか、国立公園の管理者がこまめに清掃しているのか。いや、たぶん前者ですよね。本当に、誇張ではなく、ハイキングコースの全てで何一つゴミを見かけませんでしたし、そもそもゴミ箱もありませんでした。そういえば日本でも確か「残していいのは足跡だけ」みたいな言い方がありませんでしたっけ。

やはり国立公園だから特別に厳しいルールがあるということもあるでしょう。でもここには私のような外国人も多数訪れるはず。その外国人もここでは「ゴミはきちんと持ち帰ろう」と思わせるような何かがあるように感じます。この圧倒的な美しい森を眺めていると。

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途中から「穏やかな山」という表示とともに上り坂になって……、いや、これは穏やかどころじゃない急峻な場所もありましたが、とにかく進んでいくと、山のてっぺんに出ました。山の上は大きな岩がたくさんあって、その岩の上から眺める風景は、森と湖が地平線まで織物のように交錯しながら広がっていて、これぞ中央スオミの湖水地帯ならではの風景です。思わずシベリウスの「Finlandia」の、コーラスの部分を思い出しました。

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youtu.be

大きな岩の上で、サンドイッチを作って食べました。

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ハイキングコースはところどころ木道や、あとかなり急峻な場所にはロープなどが設置されていますが、基本的には大自然を満喫しながら歩くことができます。小さなお子さんでも、ところどころ手伝ってあげればたぶん大丈夫(実際に小さなお子さんも見かけました)。中には犬を連れてハイキングしているご家族もいました。

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大自然の中で迷いそうになりますが、ハイキングコースの木々に黄色いペンキで丸い印がつけられていて、これを目印に進めば迷うことはありません。人工的な矢印などを極力使わず、木々に目印をつけるというの、大雑把と言えば大雑把ですけど、すごく控えめなやり方でいいなと思いました。

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全行程は4.6km、2〜3時間もあれば踏破できます。私のような初心者にもお勧めです。そして、何一つ取らず、何一つ残さずに去ることを心がけましょう。

砂利道を長時間走ると、車が泥まみれになります。というわけで、小さな街のガソリンスタンドで洗車をしました。洗車場の機械をどうやって使うか分からずにまごまごしていたら、そばにいた車のおばあさんが英語で「私が教えてあげるから、着いてきなさい」とガソリンスタンドのキオスキ(キオスク)へ。ここでチケットを買うシステムなんだそうです。おばあさんがあれこれ店主のおじさんに伝えてくれて(フィンランド語で「この人が車を洗いたいんだって」だけは聞き取れました)、その店主のおじさんもわざわざ洗車機のところまで出てきてレクチャーしてくれました。優しいなあ……。

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名刺入れくらいの大きさがあるプラスチックのチケットを買って、車を洗車機の中に入れ、チケットを機械に押し込んでボタンを押すと、洗車が始まりました。何だか我が子を眺めているかのような愛おしさ。10分ほどで「我が子」はピカピカになりました。教えてくれたおばあさんにお礼を言ったら「私も若い頃は英語をバリバリ使ってたけど、今はこの歳だからね」ですって。いえいえ、私なんかより百倍流暢でいらっしゃいます。本当にありがとうございました。

しまじまの旅 たびたびの旅 98 ……ホテル・スオネンヨキ

カヤックツアーを終えたら、夜の七時過ぎ。北欧の夏は昼間が長いので、七時過ぎでもかなり明るいですが、たぶん疲れるだろうなと事前に予測して、国立公園から一番近い(車で30分くらい)小さな街のホテルを予約しておきました。スオネンヨキ(Suonenjoki)という街にひとつだけしかないという(ガイドさんによる)、その名も「ホテル・スオネンヨキ」です。

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事前にメールで連絡が来ていて、「着いたら暗証番号を押してホテルに入り、そのまま部屋に入って。鍵は部屋のドアに差してあるから」とのこと。チェックインやチェックアウトはどうするんでしょうか。ホテルの裏の駐車場に車を止めて、そのまま建物の三階にあるホテルへ。この暗くてちょっと怪しげ(失礼)な雰囲気は……思わず「You can check out any time you like, but you can never leave.(いつでも好きなときにチェックアウトできるけれど、二度とここを出られない)」というイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」を思い出しました。

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部屋の中も適度に場末感(またまた失礼)が漂っていますが、とにかく疲れていたので、シャワーを浴びてすぐに寝ました。共用サウナもあったので入ってみたかったんですけど、あまりに疲れていてあきらめました。壁にはかなり古い何かのスポーツチームの写真が何枚か飾ってありました。フィンランド語を読む気力もなくて何のスポーツだか確認しませんでしたが、このスオネンヨキの代表チームらしいです。みなさんズボンの腰の位置が異様に高くて、全員「気をつけ!」の直立不動で写っているのが時代を感じさせました。

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翌朝、周囲を散歩してみると、ホテルの近くで朝市が立っていました。野菜やベリー類を売っているお店がいくつか。そういえばホテル・スオネンヨキの看板もそうですが、この街はあちこちでベリーの絵を見かけました。もしかするとベリー類が特産なのかもしれません。フィンランドはどこでも野生のベリーが摘み放題みたいな国ではありますけど。

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ホテルの部屋のクローゼットに小さな鍵がかけてあって「一階のジムが使用できます」とのこと。旅行中も体幹レーニングと腕立て伏せなどは継続してきたので、ジムに出かけてみましたが、これは……かなり本格的なジムで、ホテルによくあるマシンが二つ三つといったような「おざなり」な作りではありません。あとから分かったのですが、これは地元の人も利用するトレーニングクラブで、ホテルと提携して宿泊客にも開放していたんですね。

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宿泊代に含まれている朝食を食べに食堂に行ったら、受付の女性が「食べ終わったら宿泊客カードを書いてください」と言ってきました。なるほど、ここで宿泊代の支払いをするわけですか。この女性とは英語とフィンランド語でいろいろ話をしました。「日本にムーミンのテーマパークができたんでしょう?」と、やけに日本にお詳しいと思ったら、彼女は15年くらい前に「日本人の彼氏がいました」とのこと。旅行者の日本人と知り合って、その後しばらくつきあっていたそうです。

私が「日本の東京から来た」と言ったら、「東京に行ってみたい」。
「ここと違って、騒がしいし、人も多すぎますよ」
「でも私はずっとこの街にいるから。ここはつまらなくて……」

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う〜ん、確かに、私みたいな旅行者にはこういう小さな街がかえって愛らしく感じられますが、それは旅人のノスタルジーに過ぎないですよね。車で五分もあれば通り抜けられるくらい小さくて、教会とスーパーマーケットと小さな映画館がひとつといった感じの街です。田舎に住んでいて、そこからなかなか出られない状況を背負っている中で、都会の喧噪がどれほど魅力的に思えるかは、私にも体験があるのでよく分かります。

でもホテル・スオネンヨキ、最初の印象と違ってとても過ごしやすいホテルでした。怪しげとか場末感とか言って、ごめんなさい。

しまじまの旅 たびたびの旅 97 ……湖でカヤック

ユバスキュラからさらに西へ向かってクオピオ(Kuopio)を目指す途中で、幹線道路から山(といってもフィンランドは高い山がほとんどないので丘といったところですが)の中の舗装もされていない道に分け入り、小さな小さなボート乗り場のような場所にやってきました。ここはネットで見つけてあらかじめメールで予約をしておいた「カヤックツアー」が出発する場所なのですが……。

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でもきっちり時間通りにガイドさんとおぼしき男性が登場しました。あれ、他のお客さんは? ……と思ったら、なんと私ひとりだけなのでした。私ひとりのためだけにわざわざ来てくださったんですね。「英語はあまり得意じゃないんだけど」とおっしゃるガイドさんは私と同じくらいの年齢(後で聞いたらひとつ年上でした)で、この辺りの自然の中で遊ぶ様々なレクリエーションのガイドをしているのだそうです。

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カヤックに乗ったことは?」と聞かれたので「簡単なシーカヤックなら……」と答えたら、「じゃあ行きましょう」と特に練習もすることなくいきなり湖へ。今回のカヤックは、以前海で乗った簡単な構造のものとは違って、腰回りとカヤック自体をぴったりカバーして水が入らないようにする、細長い流線型の本格的なものでした。まっすぐ進むときのためにレバーで操作するラダーまで付いています。

乗り込んで私が「Minä olen kajakilla.(カヤックに乗っています)」と言ったら「kayakissa」だと直されました。なるほど、私は船の上に乗っているので「kajakilla(カヤックの上に/で)」だと思ったのですが、カヤックは半身が船の中に入っていますから「kajakissa(カヤックの中に/で)」としなければならないんですね。

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以前シーカヤックでは盛大にひっくり返ったことがあったのでかなり心配だったのですが、湖水に漕ぎ出してみるとその心配はいっぺんに吹き飛びました。まずは流線型が「鋭い(?)」ので、わずかなパドル操作で面白いくらいすいすい進むのです。しかしなんといっても感動したのは、フィンランドの森に囲まれた湖の、そのあまりの美しさと、そしてあり得ないくらいの静寂です。もう静寂の度合いがものすごくて、言語化するのも困難なのですが、耳がつーんと痛くなるくらいに静かなのです。

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そして水の透明度がものすごい。「この水は飲めるんですか」と聞いたら「もちろん」とのお答え。バカなことを聞きました。湖畔に近い浅いところには、自然の倒木が積み重なっているのが見えます。また湖畔に近い場所の倒木が不自然に折り重なっていたり、鉛筆を削ったような形で樹の根元だけが残っていたりするものがあって、ガイドさんが「誰の仕業だと思う?」と聞くので「ビーバー?」と答えたら「その通り!」と。滅多に姿を見せないのだそうですが、ガイドさんはつい最近実際に見かけたと言っていました。

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そのまま二人で、クリークのような場所を通り抜けたり、笑う男性の顔のように見える岩を見たりしながら、途中小さな無人島に上陸して、そこでコーヒータイムになりました。といってもガイドさんは「最近夕方にコーヒーを飲むと寝付けなくて」と飲まなかったんですけど、私のためにキャンプ用のコンロでお湯を沸かし、コーヒーを入れてくれました。ほかにもフィンランドで定番の丸くて薄い黒パンに、サーモン、チーズ(「leipayuusto」という、カッテージチーズを固めて薄くして焼き目をつけたもの)、レタス、バター。それとカレリアパイに黄色いベリーのジャム。素晴らしい食事でした。

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そうこうしているうちに日がようやく傾いてきて、帰途についたのですが、ここからが圧巻でした。さっきまでと違って風が一切やんでしまい、湖面がまるで鏡のようになっているのです。夕刻で森林は黒々としており、それが映った湖面も黒々としています。一切の音もやんでさっきよりも静寂の度合いが増したような。私は「宇宙に浮いているみたい」だと思って、ガイドさんにもそう言ったんですけど、彼は「そう?」とあまり同意してくれませんでした。ま、私の英語が拙かったのですね。きっとそうです。

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ガイドさんはお子さんが四人いるけど、みんな大人になって独立しちゃったから、いまはこういうガイド業を悠々自適(?)でやっているのだそうです。「日本人のお客さんも多いですか?」と聞いたら「アンタが初めて。中国人の団体客が一度来たことがある」。最近になって英語のウェブサイトを作ったそうで、TripAdviserに載ったから、よかったらコメントを書いてと言われました。

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都会の観光地からはかなり離れていて、公共交通機関などまったくない国立公園の中なので、レンタカーなど車が必須ですが、本当に行く価値のあるツアーでした。もうちょっと私が英語かフィンランドが話せたらよかったんですけど、あまり会話が続かなくてガイドさんも困ったでしょうね(なにせ今回の客は私ひとりですから)。でもその分、あり得ないくらいの静寂を味わうことができました。貴重な体験でした。

kalajaretkeily.fi

しまじまの旅 たびたびの旅 96 ……ユバスキュラでぶらぶら

中央フィンランド(keski suomi)のほぼ真ん中にある都市、ユバスキュラ(Jyväskylä)にやってきました。ここにはお目当てだったアルヴァ・アアルト美術館と、中央フィンランド博物館があるのです。この二つは隣り合っているので、近くに車を停めたいなと思っていたら、目の前に駐車場がありました。……が、どうやら無料ではないらしい。実はずっと田舎を走ってきたので、きちんと駐車場に車を入れたことがなかったのです。

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通りかかった街で路上駐車をしている車を観察していたら、みなさん車を停めてから近くにあるパーキングメーターみたいな機械のところに行って何やら支払いをしているご様子でした。それでこの駐車場でも同じような機械を見つけて、支払いをしてみることにしました。表示は全部フィンランド語なんですけど、「info」というボタンを押してみると英語表記が選べるようになっていました。他にも英国の国旗がマークになっているボタンやタッチパネルもあります。

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英語の説明によれば、自分で停める時間を決めて、その分の料金を支払うみたい。とりあえず二時間ほど入力して、カードで支払うと、小さなカードが印刷されて出てきました。ここにタイムリミットが記載されていて、このカードをダッシュボードの外から見える場所に置いておくというシステムみたいです。その時間が過ぎると追加料金が課せられるのかな……って、チェックしている方などいませんでしたけど。このパーキングメーター、他の場所では車のナンバーを入力するよう求められる機種もありました。

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アアルト美術館は、規模はそんなに大きくないけれども、彼らしい、というかこれぞ北欧デザインという建築や家具の数々が並んでいて、素晴らしかったです。北欧のデザインって、シンプルなだけじゃなくて、どこか無骨なほど素朴な印象があって、そこがいいなと思います。うまく言語化できないけれど、デザインしすぎていないところが普段使いにぴったりというか。

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おとなりの中央フィンランド博物館は、なんと改修のため今年の末まで休館ということでした。残念です。駐車場の時間もまだ余っているので、その向こうにあるユバスキュラ大学のキャンパスを散策してみることにしました。キャンパスといっても街に溶け込んでいるような感じで、特に校門も塀もありません。それにしてもユバスキュラの街は人があまりいません。今は夏の休暇期間中だからなのかもしれないけれど、ユバスキュラに限らず、どこの街も人影が本当にまばらです。

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キャンパス内はもっと人がいません。夏休みだからなのかな。大学構内特有の雰囲気を、中国の大学に留学していた頃など思い出しながらしばらくゆっくりと散策して、戻ってくると「oppilastalo」と書かれた建物が。えーと「oppilas(学生)」の「talo(家・建物)」だから学生会館ですね、たぶん。中に学食らしきカフェテリアがあったので、ここで昼食を食べることにしました。

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食べているうちに学生さんや教職員とおぼしき方々でカフェテリアはほぼ一杯になりました。ということは、さっき人影がほとんどなかったのは授業時間中だったからなのかもしれません。

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お昼ご飯を食べてから、ユバスキュラの繁華街にも行ってみました。繁華街でも人が少なくて、しかも爽やかな北欧の夏の気候です。いいですねえ。オープンカフェで、若い女性三人組のストリートパフォーマーを眺めながらお茶をしました。ギターやリコーダーなどの楽器と、三人の歌声がとても素敵なので、帰りがけにカンパをしてきました。

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車を停めた教会前の公園そばにあるユバスキュラ美術館では、偶然日本人作家の展覧会をやっていました。佐藤裕一郎氏という方の作品で、最初私は写真展だと思っていたのですが、よく見ると緻密に描き込まれた木炭画なのでした。美術館のウェブサイトによると、佐藤氏は2016年にアーティスト・レジデンスでユバスキュラに1年間滞在されたのだそうです。

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https://www.jyvaskyla.fi/taidemuseo/nayttelyt-ja-tapahtumat/vaihtuvat-nayttelyt/yuichiro-sato-metsa-todellisuuden-ja

しまじまの旅 たびたびの旅 95 ……お隣さんちでお茶とベリー摘み

民泊のおかみさんが「お隣に日本と関係の深い人がいるから、会いに行かない?」と誘ってくれました。いちばん近くの「お隣」といっても1kmくらい離れたところにあるお宅です。私の車におかみさんも載せて、二人で向かいました。

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これまた素敵なお宅です。農家なのかと思ったら、もちろん畑も作っているけれど、芸術家でもあるとのことで、庭(といっても広大な原野です)には無数の彫刻作品が点在していました。いずれも周囲の自然の樹や石などを使った独創的な作品です。この方はかなり高名な芸術家のようで、日本や中国の芸術イベントにもたびたび出品されているんだそうです。それで「日本と関係が深い」んですね。

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お宅に招いてもらって、コーヒーとおやつを頂きました。甘い菓子パンと、甘くない菓子パンの代表格「karjalanpiirakka(カレリアパイ)」です。この一見「あわび」にも似た形の「karjalanpiirakka」は、フィンランドのいずれのパン屋さんにも、いえ、スーパーにだって必ず売られている定番です。お茶の時間にはフィンランド語と英語を「ちゃんぽん」でいろいろなお話をしました。まだまだ文章がきちんと成り立たないけれど、語彙力があればある程度まで何とかなるという気もしました。旅行中も頑張って単語を覚えようと思います。

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そしてまた、フィンランド人はみんな英語が達者というわけではなく、ある程度の年齢以上の方はけっこう苦労されているご様子だということもわかりました(若い方々はほとんどネイティブスピーカーと同じ程度のようですが)。

そのあと、広大な庭を案内してもらいながら、道端で「ベリー摘み」をしました。フィンランドでは誰もがベリーを摘んでいいと聞いていたんですが、本当にできる機会があるとは思いもよりませんでした。民泊のおかみさんに感謝です。やっぱり旅は都会より田舎のほうが私は好きだなあ。というか、歳を取ったせいか好きになったというのが正解ですか。

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若いときに一度憧れて、日本の農村で同じような暮らしを志したことがあるんですけど、もろもろの事情があり、田舎の閉鎖的なところにも失望して、五年ほどで東京に舞い戻りました。今からまたできる気はしないし(特に日本では)、フィンランドの田舎だって住んでみればそれ相応に「もろもろの事情」はあるのでしょうけど、こうした農村の暮らしは本当に静かで、そして豊かだなと思います。

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そしてもちろん、こちらのお宅も、そして民泊でおじゃましているお宅も、いずれもかなり裕福な層であることはまちがいありません。これがフィンランドの農村の平均的な暮らしではないでしょう、きっと。民泊だって、自宅に加えて住まいにさらに余裕があるからこそできるわけですし。それでも、古い家を手入れしながら、周囲の環境をいつくしむように住んでらっしゃる様子を目にして、少なからず心動かされてしまったこともまた確かなのです。